焼ける臭い──

響き渡る悲鳴──

漂う赤い炎──

少女は見て聞いて感じて、ボロボロと涙を零す
しかし、少女は走り始める
ここから逃げる為に…

所々焼かれた着物を更に汚しながら…


***


ある村外れ
そこに、一人の男がいた
青年は忍装束を着、目を細めていた
その先には赤く揺らぐ何か…否、炎
村が飲み込まれる程の大きな炎は消える事を知らず徐々に威力をましていった
一晩では消えるはずもない炎をゆらりと見つめ彼は気配をよむ
気配が一つ一つと消えていくというのに表情を崩さない彼
しかし、小さな気配がこちらに向かっているのがわかると先ほどとは一変して眉を寄せそちらの方に向かった

──一つだけ教えておくとすると彼がこの村を燃やした訳ではない
彼は友人を助けに来たのだ
しかし、間に合わなかったのだ
これほどまでに炎の回りが早いとは思ってもなかったらしい
ここまで来てしまえばもう誰も助ける事なんてできないと思っていたのに…
彼は先ほどで近づくことなどなかった炎のとこまで掛けて行った


***


少女は走る
青年は捜す

赤き化け物から逃れるために
その命を消させないために

少女は後ろを振り向かず
青年は前の炎を見向きもせず

転んでも前を向いて走り出す
ただ一つの気配をたどる

少し視界の開けた場所で少女は後ろを振り向く
もうすでに村は炎にのまれ形など残っていなかった
先ほどより視界の開けた場所で青年は地に降りる
助けたかった人はもうすでに火の中で焼かれてしまった




「「…静かに眠れ赤き化け物よ」」

「っ!…誰!?」



一字一句違わぬ言葉を呟いた人間に少女は警戒を示す
あちらこちらと視線を回してもどこにもいない人に若干の恐怖を見せる



「──村の子供かい?」



ガサッと草木が揺らぐ音の後、青年がおりて来る
少女は突然上から現れた青年に驚き目を見開く
青年が着ている忍装束は所々が焼け焦げ素肌が見え更に火傷までしている
そんな青年を昔─この生きていた間で─みたことがある気がしたのだ

一方、青年も驚いていた
一字一句違わぬ言葉を呟いた少女は自分が助けたかった人の面影を持っていた
それに、少女と自分が呟いたあの言葉は…助けたかった人が良く火事を見るたびに言っていた言葉だった



「…うん」

「そっか…君を助けに来たよ」



青年は少女に手を差し出す
もし、少女が助けたかった人の子ならば…見捨ててはいけない
少女は一瞬迷った後、青年の手を握る



「…ありがとうございます」

「私の名前は雑渡昆奈門…君は?」

「…。雑渡さんは忍者なの?」

「うん、君の両親も忍者だったよ」



それも、優秀なね
と、笑う青年──雑渡昆奈門──は少女────の手を引いてその村を立ち去る

今度こそ、この命を離さないために…

その日以降その村は名を無くし『呪いの村』と呼ばれるようになる
霧靄で何も見えず旅人を苦しめるという恐ろしの村へと……




─後書き─
ついにはじめてしまった……。
若干矛盾してそうな気がするけど…目を瞑ってください…。