「別に迷惑だなんて思った事はないよ。嫌いじゃないし・・・」


そう言って彼女はいつもの鉄面皮が嘘のように晴れやかに笑った

それがどうしても忘れられない

だからなのかもしれないし、違うかもしれない

これが悪戯仕掛け人としてなのかそれともただのフレッドとジョージとしての意地なのか分からない

でも結局のところする事は同じだし、難しく考えるのはらしくないので別にいいかな?って、思ってる自分たちがいる



+ 彼らの意地と彼女の得意技 +



夏休みなのでいつもよりも人の多いダイアゴン横町で彼らがそれに気がついたのは同時だった

「おい、相棒」

「分かってるって」

今しがたちらりと見えた―――綺麗なのにまるで人形のように無表情な―――横顔は彼らにとって見覚えのあるものだった


スリザリンの氷の女王、スピカ・


彼ら―――フレッドとジョージにとって寮こそ違えど同学年の、ホグワーツ内ではいろいろな意味で有名な少女である

ちなみについ先日、発覚したのだがスピカは彼らの後輩であるアルタイル・の実姉であり、一緒に暮らしているハリー・ポッターの姉貴分だったりもする

なぜか知らないが彼女はファミリーネームで呼ばれるのを嫌っており(でもファミリーネームが嫌いなわけではないらしい。あくまで呼ばれるのが嫌いなのだ)そのせいでアルタイルたちと姉弟だと気がつかなかった

そんな彼女はどうやら今日は一人でダイアゴン横町に来ているようだ。慣れているのか多くの人の中でもすいすいと進んでいて、油断すれば見失ってしまいそうだ

それを見て、顔を見合わせた双子は同時にニヤリと笑う

アルタイルとハリーは後輩であり、弟の友人―――つまりは自分たちにとっても友人だがその姉のスピカは彼らにとってある種のライバルであった

その理由の一部としては彼女の所属寮がスリザリンであることも含まれているがそれ以上に悪戯仕掛け人として彼女をライバル視しているのだ

思い起こせばそれは双子やスピカがホグワーツに入学してからしばらく経った頃のこと

彼らは入学前から思い描いていたように日々、悪戯に精を出していた。その頃はまだ偉大なる先輩である悪戯仕掛け人の事を知らず、特に名乗ることもなく悪戯をしていた

そんな彼らの初の黒星がスピカだった

同じ一年生であったがスピカは入学当初からその容姿で、また一か月もしない内に発覚した優秀な頭脳からホグワーツで有名になっていた。その有名人―――しかもグリフィンドール生と仲の悪いスリザリン生の鼻を明かしてやろうと考えた双子

まだ一年生だし、女の子だからクソ爆弾は勘弁してやろうと上から目線で計画を練り、悪戯を決行したものの結果は見事なまでの失敗。
それどころか彼女のせいでマクゴナガルに彼らが悪戯をしている事がばれてしまったのだ

よくよく考えなくともそれまで正体不明だった悪戯の犯人が初めてばれた瞬間だったと言える

そしてそれまでの隠れて悪戯をするやり方ではなく、ばれても問題なし・むしろ堂々と名乗りを上げてやろうというやり方に双子が変更したきっかけとも言えるだろう

そのような経緯があり、一方的にスピカをライバル視した彼らはそれ以降も悪戯を決行。しかし何度やっても黒星ばかりが重なるだけで、彼女への悪戯の回数は増える

「ちょっとやりすぎかな?」と、彼らにしては珍しく思う時もあったのだが悪戯される本人が問題視してないので(悪戯仕掛け人として情けない話ではあるが・・・)今も彼女への悪戯は継続中である

そんなわけでその日、彼女を見つけた時、双子はチャンスだと思った

まさか彼女もこんな人の多いダイアゴン横町で悪戯をされるとは思っていないだろう

もちろん夏休み中なので魔法の使用は禁止だし、こんな人の多い所で爆発物など騒ぎになるようなものを使う気はない。もし使えばフィルチではなく、魔法省が飛んでくることは目に見えている

そんな事を考えながらジョージがポケットから取り出したのは大ムカデのおもちゃ。もちろん魔法界のものなので毒こそないものの本物そっくりに動く

魔女であるスピカがこれまでの人生の中でムカデを見たことも触ったこともないなんてことはないだろう

だが思ってもいない時にムカデが現れれば驚かないはずがない。背後から忍び寄ってこれを服とか髪につければいくらあの無表情が基本装備のスピカといえども悲鳴をあげるはずだ

まぁ・・・悪戯というにしてはスケールが小さいかもしれないが本番はホグワーツが始まってから。前哨戦としてとりあえず小さな白星をあげるのもいいだろう

顔を合わせた瞬間に思う事は同じと気がついた二人はそっとスピカの追跡を開始

人が多くなかなか近付けないが、スピカは人の多いメインストリートから外れて、裏道に入り込んだ。まるでさっさと追い付けとばかりの行動にニヤリと笑いながら速度をあげて、角を曲がり


―――側頭部に感じた衝撃とそれによって頭部の反対側を壁に打ち付けた痛みで前を進んでいたジョージは気絶したのであった



ジョージが目を覚ました時、そこは見知らぬ家の中だった

「よぉ。起きたか、相棒」

よく知った声のする方に視線を向ければソファに座るフレッドの姿

起き上がって辺りを見回せばどうやら自分はどこかの家のリビング―――それも魔法使いの家とかではなく、マグルっぽい―――のソファで寝ていたらしい

「ここ、どこなんだ?」

「私の家よ」

ジョージの当然の疑問にそう答えたのは目の前のフレッドではなく―――

「スピカ!?」

叫ぶように名を呼ばれたスピカであったが特に反応はなく、驚くジョージの前にジュースらしきものが入ったコップを置くとそこでやっと視線をジョージに向けた

「頭、大丈夫?」

「え?あ・・・・・・」

そう言えば側頭部に衝撃を感じた所で意識が途切れている

話を聞けばあの側頭部への衝撃―――スピカの蹴りで気絶したジョージを放置しておくわけにもいかず、スピカの家に連れてきたらしい

「うん。ちょっと痛いけど大丈夫」

「よかった・・・・・・蹴り飛ばして本当にごめんなさい

誰かが追いかけてきているのは気づいてたんだけどそれがまさかあなた達とは思わなくて・・・」

いつもの無表情を崩して申し訳なさそうにそう言うスピカ


彼女の名誉のためにも言わせてもらえば彼女が問答無用でジョージを蹴り飛ばしたのは訳がある

世間には知られていないがヴォルデモート卿の孫である彼女は様々な勢力に様々な理由で狙われている

現にスピカがホグワーツに入学する半年ほど前まで魔法省による指名手配がされており、闇払いに追われる身だったのだ

今はその手配こそ解けているが彼らの根本的な考えが変わったわけではなく、ホグワーツ内ならばともかくダイアゴン横町の様な場所で警戒を怠るわけにはいかないとスピカは考えている

だからこそ誰かにつけられていると気がついた時、追跡者の怪しげな雰囲気に―――ただ驚かせようとしただけだったみたいだけど―――二人くらいならどうにかなると考え、わざと人気のないところへ向かい、攻撃に移ったのだ

ちなみに自分の姿を見せることなく、相手の側頭部に入る蹴りは彼女の得意技である

もっとも逆に言えば自分も相手の姿が確認できないというデメリットもあり、今回はそれがあだとなったのだが・・・

二人目への攻撃の前にちらりと見えた見覚えのある赤毛のおかげでフレッドは命拾いした様なものである


しかしそんな事情を何も知らない彼らに説明することができないスピカであったがフレッドもジョージもその容姿から苦労しているのだろうと納得してくれた様子だった

「まぁ・・・僕らも女性の後を付け回すなんてマナーがなってなかったからな。おあいこかな?」

「そうだな。なにはともあれナイスキック。スピカはマグル流の喧嘩術でも習っているのかい?」

「まぁね。夏休みとか魔法を使えない時に便利だからね」

「ちなみにアルタイルとハリーは?」

「ん?あぁ・・・あの二人は私ほどではないと思うけど?」

「了解。ロニー坊やにはハリー達とは喧嘩しないように言っておく」

「だな。あの蹴りは世界を狙えるぜ。くらった僕が言うんだ。間違いない」

「ふふ・・・っ。なにそれ。褒めすぎじゃない?」

そう言って楽しげに笑うスピカ。しかしそんな彼女を見て、何とも言えない表情になった双子に眉をひそめる

「どうかしたの?」

「「え?い、いや!なんでもないよ!!」」

ブンブンと首を左右に振る二人にスピカは首をかしげる

だが彼らとしても言えるわけがない。スピカの笑顔に見とれていたなど


彼らが初めてスピカの笑顔を見たのは入学してから半年ぐらいの頃、何度悪戯をやってもスピカが引っかかる事がなく楽しさよりも意地になっていた

そして友人のリーにまでスピカを狙った悪戯が多いことを指摘されて、意地になっていることを自覚した双子はスピカ自身に迷惑かどうか聞いてみたのだ

後から考えれば普通は迷惑と答えられるに決まっている問いかけだと思う。しかしスピカは、

「別に迷惑だなんて思った事はないよ。嫌いじゃないし・・・」

そう言って彼女は晴れやかに笑ったのだ。たぶんあの時は今以上に間抜け顔になっていたと思う

結局、本人から了承を得られたのでいいだろうということでそれからも変わらず悪戯をし続ける事になったのだが・・・


この笑顔がまた見たいから悪戯をし続けてるのかもしれないだなんて言えるわけがない




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