友達が口々にイケメンと言うのは自分の兄の名前やその友人達
ただ一人そのメンバーに含まれない人がいる…


「あ、三年生今日体育みたいだよ」

「ホントだ!今日もかっこいいっ」


自習時間。課題なんて出されるわけもなく自由に過ごしていた
ある者は睡眠に
ある者は読書に
またとある者は人間観察に




「なに?」

「先輩、一緒に見よう!」


窓際の一番後ろ。俗に言う特等席を陣取るのは私、
友人は多い方ではあるが今後も付き合っていきたいと思える友人は両手で数えられるぐらい
──その内男の方が多いなんて口が避けても周りには言えない
その内の一人である溝川由美の趣味は人間観察
否、イケメンを捜すこと
今現在のお気に入りはひとつ上の先輩5人だそうだ
中でも一番のお気に入りは食満留三郎で、初等部の後輩と遊んでる姿が堪らないそうで
──なんて変な友達を持ってしまったのかと毎度思わされる


「あー!マジかっこいい!そう思わない?」


と指されるイケメンはいつもと同じ5人
先程の食満留三郎
その他に立花仙蔵、中在家長次、七松小平太それに善法寺伊作


「いつも思うんだけど潮江先輩は?」


彼女の中で唯一名が呼ばれないのは潮江文次郎
あの6人で、いつも一緒にいると言うのに

そして、決まって彼女は同じ台詞を口にする


「だって、おっさん顔じゃない」


──中在家先輩だってそれに近いぞ
なんて次の言葉を飲み込むのは日常



***



「全く失礼だよね、人の恋心を知らずに」

「それを俺に相談する意味がわからないぞ」

「五月蝿いわね。みんなに言いつけるわよ、三郎がホモだって」

「おい

「にしても留三郎とは…」

「敬称忘れてるぞ」


昼休み
屋上で共にご飯を食べるのは隣のクラスの鉢屋三郎
本来なら他の面子とも食べる予定だったのだが委員会やらで忙しいらしい
まぁ幼馴染みである彼が一番私の事情を知り得ているから相談には持って来いなんだけど…


「屋上だから誰も来やしないよ」


それに兄を呼び捨てにして何が悪い
そう私、と食満留三郎は血の繋がった兄妹である
中学生の頃両親が離婚し、お互いが引き離された
だがこのご時世、音信不通になるはずもなく今もこうして子供同士は仲良しだ
更に言うなれば異性に興味を持ち、子供になんぞ愛を注いでくれない親にお互いに嫌気が差して、今現在二人仲良く屋根の下で暮らしている
お金は有り余るほど持っていた両親故に何事も困ることなく…

兄妹だと知る人間は数少ないとだけお伝えしておこう


「で?なんの相談だ?」

「あれ?バレてる」

「何年一緒にいると思っているんだ」

「なんでもお見通しって?」


クスクス笑いながらお弁当箱を閉じる
──今日の弁当担当は兄である


「そろそろ告白時期なのかなぁーって」


この私、兄と犬猿の仲である潮江文次郎に恋をして早いもので二桁の大台に乗ろうとしている
そう、人生の半分を片想いで過ごしているのだ
本当にかっこいいんだって!


「…なんだ、しないんじゃなかったのか?」

「そのつもりだったけど…もう一緒にいれないかもしれないから」


初恋に節目を付けたくて


「そういうとこは食満先輩そっくりだな」

「何とでも言えばいいさ」


私には夢がある
その夢を叶えるには恐らく彼と同じ進路先には行けない
今まではそれとなく進んできたけどそうも行かないから
彼の進路が決定するこの時期に…


「(俺はこのままの関係がいいなんて口が裂けても言えないな)結果を楽しみにしてるぞ」


そんなことを言われたのでデコピンを喰らわせてやった



***



「潮江センパイ」


先日終わった体育祭の備品が溢れかえる生徒会室の机に参考書を並べるのは潮江文次郎
生徒会室は今、二人以外誰もいない


「なんだ改まって」

「いいや、別に」


ガラガラと椅子を文次郎の隣に置き参考書を除き見る
──うん。難しい文字いっぱい


「センパイ将来何になるんですか?」

「あ?税理士を目指してるが…どうした、急に」


センパイが名前で呼ぶ女子を私は知らない
留兄の妹だからって言うのもあるかもしれないけどちょっぴりトクベツ感があって好き


「流石、会計の申し子。来年の参考になればと…ね」


こてんとセンパイの方に体を倒し肩に頭を乗せて眼を閉じる
一瞬の間の後、頭をポリポリ掻いて、シャーペンを置く音が聞こえた


「俺を落とす気か?」

「んー?それぐらいで落ちるセンパイじゃないでしょ?それよりも…」

「なんだ」


眼を閉じたままだからセンパイの表情なんて解んない


「それよりも、好きな子以外に無防備になったらダメですよ」


今時、女の子の方が肉食なんだから
とクスクス笑いを溢しながら携帯を確認し眉を寄せる
そのまま席を立ち鞄を肩にかけ、出口へと向かう


「それじゃ、センパイまた明日」

「お、おう」


手を振って生徒会室を離れ留三郎からのメールを開けば
『買い物行くぞ。早く校門に来い』


「邪魔された感が否めないのは何でだろうな…」



***



が出ていった生徒会室では文次郎が珍しく机に体を預けていた
そこに入るのは幼馴染みの立花仙蔵


「珍しいな文次郎」

「あぁ」

「さっき、と擦れ違ったが何かあったのか?」


何も知らない筈なのに妙に確信付く仙蔵に眉を寄せる


「…好きな女以外に無防備になるなってさ」


どう答えればいんだって話だ


「言ってやればいいだろう…だからだってな」

「バカタレ!そんなこと言えるか!!」


それに、アイツが好きなのは鉢屋だろ
と言ったときの仙蔵の表情は忘れられない
憐れむような、呆れるような、驚きに溢れた表情を



***



校門の壁にもたれ掛かかって携帯をいじっているのはイケメンと噂の食満留三郎
その隣には八左ヱ門がいる


「おまたせ」

!やっと来たか」

「珍しい組み合わせだね」

「兵助達に買い出し頼まれたんだよ」

「ふぅん。ジャンケンで負けたんでしょ?」


ギクッと分かりやすい反応をする八左ヱ門に若干の機嫌の悪さが緩和される
──それでも不機嫌なのは全部兄のせい


「買い物ぐらい一人で行ったらどうなのよ」

「竹谷もいるしどうかと思ってな」

「の割にはメールが強制だったけど。三郎からなにか聞いたんじゃないの?」


先程の八左ヱ門と同じ様な反応をする兄に笑いが込み上げてくる
取り合えず明日、三郎はボコすとして…


「…何で文次郎なんだ」


私はその言葉が嫌いだ
兄はいつもそう
気に入らない相手だと必要以上に踏み込んでくる
それが潮江センパイなら尚更


「…八左ヱ門、今日はみんなでご飯食べるの?」

「おう!俺ん家でたこ焼きパーティだ」


みんな持ち寄りでな
ニカッと笑う八左ヱ門は恐らく先程の兄の言葉が聞こえなかったのだろう

あんなこという兄は無視だ
どうせ、家に帰っても問い詰められるのだから

スーパーに着いてカートを引いて向かうは海鮮売り場
八左ヱ門は大きめのタコを2パックぐらいいれているのをみて男の子だなと感じた
一方の兄を見れば紅鮭を見ていた
──今日は鮭のホイル焼きかムニエルか
あ、明日の朝とお弁当どうしようかな


「留兄ー!ウインナー残ってる?」

「あ?残ってたと思うぞ」

「んー、じゃあ八左ヱ門他のところ回るよ」

「おうっ!」


一言言えることは一刻も早く兄と離れたかった

あれとこれとと必要な物をテキパキとカゴへ入れてに対し
八左ヱ門は迷いながら入れていく




「なーに?」

「潮江先輩に告白コクるってホントか?」

「三郎は口が柔らかいね…そのうちね」


恐らく兄も知っていること
小さい頃からの初恋を忘れることは出来なかったから
このままズルズルと引き摺る訳には行かないと思ったから…


「食満先輩はなんて?」

「知らないよ。一々留兄の意見なんて聞いてられないよ」


自分の事であるし
兄に相談すれば言われる言葉は決まっている
“止めろ”だ


「まぁ、頑張れよ」


と頭を撫でる八左ヱ門
同い年なんだけどな。なんて思うけどこの手は嫌いじゃない


「やっと見つけた。ほら帰るぞ」


さらりと現れ私の荷物を奪い去る兄
そういう行動は嫌いじゃないんだけどな



***



八左ヱ門と別れて家に帰るまで終始無言だった
それは今現在も続いており黙々とご飯を作る留三郎にソファーで携帯をいじる
アルミホイルの音が聞こえるから恐らく今日はホイル焼き


「出来たぞ」


沈黙を破ったのは夕飯を作り終えた留三郎
コップにお茶を注いで椅子に腰かける


「「いただきます」」


アルミを破けばいい色をした鮭とチーズ、キノコと野菜
一口食べれば程よい塩分が口の中に広がる
ふと、なにか視線を感じると顔を上げれば、ご飯に手を付けつつもこちらを見つめる兄の姿が


「…なにみてるの」

「別に」

「そ。…言いたいことがあるなら言えば?」

「何で文次郎なんだ…仙蔵とかなら良かったものを」

「留兄の理想を押し付けないでくれる?」

「アイツじゃなければ言ってない」

「ふざけないでよっ!文くんがなにしたって言うの!?」


いつも通りの返しにイラッとし兄をギッと睨み付ける
兄とそっくりな目をした私の睨みは友なら怖いと言うが兄には効かない


「人の価値観で私の恋を邪魔しないでくれない?」


ごちそうさま…と静かに箸を置き食器を流しにいれ自分の部屋へ入る

携帯を取り出し電話をかけようとして止めた
いつでも相談してと言われたけど、今の気持ちを一方的に押し付けるような気がしたから

仕方ないとベットに潜ればキッチンから水を流す音が聞こえた



***



特に前日のことを引き摺ることをせず朝とお弁当を作り学校に行く

兄は今日は朝から委員会があるらしい…お疲れ様
キョロキョロと周りを見渡していれば見慣れた後ろ姿が


「潮江センパイ♪」


後ろからギューと抱き締めればビックリした様子のセンパイが


「バカタレ!なにするんだ!」

「ふふふービックリした?」


ニコニコと笑っていれば少し照れた様子のセンパイ
──その表情が好き過ぎて


「バカタレ!そういうことは好きな奴にしろ」


その言葉に苦笑いを返せば文くんは複雑そうな顔をしていた


「じゃあまた」

「おう」


昇降口で別れる
なんと無く後ろに仙蔵先輩がいる気がした


「文次郎」

「…なんだ仙蔵」


不機嫌声で名を呼ぶ文次郎に眉を潜める仙蔵


「落ち込むお前キモいぞ」

「黙れ」


図星を突いてきた仙蔵を睨み付け教室に向かう
──あんな言葉言わなきゃよかった



***



昼休み
由美とお弁当を食べてればドタドタと近付いてくる足音
開いている扉から八左ヱ門と兵助が教室へと入ってくる


!」

「なに?お昼食べてるんだけど」

「大変だ!食満先輩と潮江先輩が喧嘩してる」

「…いつものことじゃない」

「いつもと違う喧嘩だから呼んでんだよ!」

「私に止めろと?」


周りが段々と静かになっていく
皆次の言葉を待っているかのように


「立花先輩と善法寺先輩がお前なら止められるって」

「あ、そう…ちなみに三郎は?」

「へ、三郎?残ってるけど」

「はぁ!?一番残しちゃいけないやつ残してどうするの!どこよ!」


ガタンと立ち上がり携帯を片手に二人に道案内を頼む
邪魔な髪をゴムで結びながら走る
──完璧に由美を置いてきぼりにしたなんてことはこの際放置だ。自分で来るだろう


「で?何が原因なのさ」

「食満先輩が潮江先輩に突っ掛かって…」

「そんな前置きはいらない。私が聞きたいのは私を呼ぶ原因!」


文くんと喧嘩になるのはほぼ留兄が突っ掛かるのが原因
普段なら周りが止めて終局するが止められない内容ならコヘ先輩が無理やり止めるか呼ばれるか
尤も呼ばれることなんて少ないんだけど
──今日は私が元凶な気がする


「知らない!俺らは連れてこいって言われただけだから」


目的地が近いのか段々人が多くなっていく
二人を見てか道を開ける野次馬の声と二人の喧嘩の声が入り交じる
…たまに三郎の声が聞こえる

少し開けたところに出れば取っ組み合ってる二人と三郎
それに傍観を決めてる仙蔵先輩とコヘ先輩に伊作先輩


「なんだコヘ先輩いるじゃん」

遅いではないか!」

!アイツら止めて!」


必死に私に助けを求める姿に首をかしげる
と二人の喧嘩の内容が聞こえて眉が寄る
──今日の朝のあの瞬間を兄が見ていたそうで


「つまり、喧嘩の内容が私だから私が解決しろと…?」

「よくわかっているではないか!さぁ早く止めろ」


とサラサラな髪を靡かせながら仙蔵はを急かす
うーんと考える動作をしたあと小平太に近付く


「コヘ先輩」

「ん?なんだ?」


ゴニョゴニョと耳元で話せば段々とコヘ先輩の口角が上がっていくのが感じ取れた
コヘ先輩は頷いて大きく息を吸った
──さぁ、実行だ


「文ちゃん!留三郎!」

「「なんだ!?」」


大きな声で呼ばれれば流石に喧嘩を止めるらしく小平太の方を向き目を見開く二人
なぜならそこにはの姿が
しかも小平太に抱き着かれているではないか


「わたしが貰うぞ!」

「「ふざけんな!」」

「……いい加減喧嘩するの止めたら?」


私の声でピタリと止まる二人
コヘ先輩は笑いながら腹に回していた腕を外してくれる
その手は私の頭をガシガシと撫でてくる
──ごめん。コヘ先輩。髪が乱れる……


「受験が控えている学生がそんなガキみたいな下らない喧嘩なんて馬鹿みたい」


クスクスと漏れる笑い声を聞いて、段々と顔が赤く染まっていく兄に更に笑いが込み上げてくる
文くんは文くんでこちらを一向に見てくれない


「潮江センパイ…放課後は暇ですか?」


何時もより低い声で問えば、少し考える動作をしたあと、あぁ…と頷くセンパイに笑みを浮かべる
あぁ…?兄?伊作先輩に連れてかれてどっか行ったよ
怪我がひどいから保健室じゃないかな?


「じゃあ、会室で」

「おう」

「さ、見せ物も終わり!皆お戻りチャイムがなるよ」


パンパンと二度手を叩けばはっとする野次馬
そして時計を確認し慌てた様子で消えていく


「ほら、三郎」


私たちも例外でもなく教室に戻らなくては…と移動を始めようとするが動こうとしない三郎にデコピンをして正気を戻す

──告白まであと少し



***



「で?俺になんのようだ?」


鞄を持って生徒会室へ行けば、参考書を開いている文次郎がすでにいた
──なんかデジャビュ


「兄に邪魔されたくなくて」


その一言で参考書を閉じた文くん
──別に開いててもいいのに…


「文くん」

「っ…なんだ」


学校では言わない愛称に一瞬の動揺が見える
それでも平常を保とうとする文次郎
それを見ているだけで幸せ


「…好きなんですと言ったらどうします?」

「………俺もだと答えるな」


たっぷりの間の後呟くように返してくれた答えにトキメキを覚える
──だってだって!今俺もって!


「隣いい?」

「あぁ」


荷物を持って向かいから隣に椅子を移動する


「文くん」


頭を文くんの肩に預ける
嫌がろうとせずそのまま髪を鋤いてくれる文くんが好き


「好きです文くん昔から」

「…俺もだ」


照れ臭そうに答える貴方がもっと好き


「照れてる?」

「バカタレ!」


その顔はいつもと違い赤かった

──あぁ、晴れて二桁近い片想いは幕を閉じたのだが、兄へ何て言おうか…今の私にはそれしか頭に過らない





複雑そうな顔をしてれば、文くんが此方を真剣に見ている
首をかしげれば徐々に近付いてくる顔。一瞬空いて額に感じた柔らかい感触
キスされたと解り、かぁぁあと赤くなりそうな顔を抑え、文くんを見る


「目閉じろ」

「うん」


今度はキュッと目を閉じれば顎を上げられる感覚がして段々と迫ってくる顔
唇と唇が触れ合う感覚に自然に顔が綻ぶ

──やっぱり暫く兄と三郎には内緒にしよう

ささやかな仕返しということで


兄の犬猿に恋をする
 兄には卒業まで内緒にすることにしました。







─後書き─

ずいぶん前から温めてた話
留三郎の妹が文次郎に恋をする……
妹ポジションっていいと思うの