神託の盾に入って1ヶ月後。まだ、よく分かんないコトだらけだけど、精一杯仕事に励んでいる…。
一人部屋じゃないから女ってバレない様にするのが疲れるけど…
でも、何かバレてる様な気もする…
でも男装して過ごすのは慣れた



「…もうすぐあの日か」



はカレンダーを見て呟いた。



「何が?」

「ん?フィンには関係ない話だ」

「じゃあ、いいじゃんか。教えろよ」

「…姉の誕生日」



は少し間を開け呟くように答える
すこし悲しそうな表情で



「…誕生日の日に何かすんのか?プレゼントあげるとか」

「しない」

「何で?大切な姉だろ?」

「何でって…必要ないからだけど?」



の言葉に少し意味が分からないのかフィンは首を傾げる
その一言で気付く方が難しいか…とは溜息をつく



「…オレの姉は死んだってことだ」

「……あ、そういうことか…わりぃ」

「いいよ別に…、オレの言い方も悪かったし」



そんでもって、その前後休むからよろしくなっ!とフィンの方を叩けば、え?とびっくりした顔をに向ける
なんだ…墓参りもさせてくれないのか?なんて、呟く気も起きず、ただフィンを見て静かに口を開いた



「やらないといけないのがあんの!それで満足か?」

「…しゃあねぇな。分かったよ。オメェがいないとつまんねぇな」

「ありがとうな」



その後はヴァンにそのことを伝えるとヴァンは少し寂しそうな顔をしに許可を与えた
それからすぐには準備を始め、"キムラスカ領土"の本拠地であるバチカルに足を進めた。

えっ?なんでバチカルかって?

それは…すぐに分かるよ


***


バチカルについたオレは宿を取り街をぶらついていた。

もちろん女の格好で……なんでって言われてもなぁ…今日はとしてじゃなくて・ファン・シセレンテとして居るからなんだよね

っと転んだ少年を発見!!



「大丈夫?」

「はいって……うわぁっ!」



その少年は、オレが差し出した手を掴もうとして軽く顔を上げたとたんにその場から飛び上がった
あまりにも不自然な行動にオレは首をかしげる
…にしても、聞き覚えのある声…



「え?」

「わ、悪気はないんだ……女性恐怖症で」



すこし、ばつが悪そうに答える少年に目を向ければ、少年もこちらを見る
その瞳と髪色にはすごく見覚えがあった
今度はこちらが驚く番だった



「──っ!!なんで……」



なんで、ここにガイラルディアがいるんだ?



「なんか、言ったか?」

「ううん、大丈夫?」

「あぁ、にしてもこんな下の方に君のような子がいるんだ?」

「オ……私元々バチカルの人じゃないの、チョット用事があってここにいるのよ」

「そうだったのか」

「そういう貴方こそ、下で、暮らすような人では無いでしょ?」



少年は驚き目を見開くがすぐに笑い出す
その行動に一瞬嫌な予感を覚える
ここにいるってことは…まさか…そんなことはないよね…



「俺は使用人さ…ファブレ公爵家のな」



ファブレ公爵家と言った時、その少年は目をギラギラとさせていた
その表情は、自分を神託の盾騎士団に勧誘に来たヴァンの表情によく似ていた。きっと嘗ては自分もそんな表情をしていたのだろう…
あぁ…やっぱり…



「そうなの……私ね、明日謁見なの」

「一人でかい?」

「うん。両親いないし、私が行きたくて行くんだもん」

「そうか……明日もまた会えたらいいな」



笑顔で答えた少年に対しは頬を紅く染め、軽く頷き宿の方に歩き出した

もしかして…ガイってこっちに来てからタラシになった?なんていう疑問を抱いて


***


午前11時…お日様がギラギラと光る頃
は敵国であるキムラスカの王がいる城に足を踏み入れた。

コツコツと足音を経てながら歩いていると1人の兵士がに近付いて来た



「何故ここにいる」

「初めまして。今日謁見する、という者です。」

「は?」

「ですから…今日謁見させていただくというものですが?」

「はっ…陛下はこの先の部屋でお待ちです」

「ありがとう」



子供だからか少し舐められたような対応をされ苛立ちはするが、お礼を言って前に進む
ま、キムラスカはその程度かと心の中で笑ってやる
失礼な態度であればあるほど、キムラスカの評価は下がる
神託の盾騎士団に所属している私には関係ないけどね

でも…あの態度、全く失礼な



「次の謁見者入りなさい」

「失礼いたします。ご多忙の折、この私のためにお時間をお裂きいただき誠に感謝いたします」



中に入ると白髪混じりの濃いめの赤髪の男と金髪の女の子がいて、その周りに家臣と親衛隊らしき人物が立っていた
おそらくあの金髪の子娘かな?母親に似ただろう髪色が違う……
幼子故あまりこういう場に居合わせたことがないのだろう。少し落ち着きがない様子。確か、年齢でいえば自分と数歳しか離れていないのか…。しょうがないか
謁見の間である以上、私はインゴベルト陛下に忠誠を誓うべきだと、ドレスの裾を軽く上げ、膝を折り跪いた。あまりにも自然な動作だったためかざわめきが微かに起こる



「顔を上げてくれて構わない。して名を何と」

「はい。お初にお目にかかります陛下……と申します」

「お主は名字は教えてくれないのか」

「……大変申し訳ございません。諸事情により申し上げることはできません」

あくまで失礼の無いようにと発したその言葉は、親衛隊や軍のお偉い様方のお気に召さなかったらしく、眉間に皺がよるのを隠そうともしないようだ
まぁ、簡単に言ってしまえば子供だからと言って甘く見すぎだな



「なんという無礼な!」

「……とは申しても、名前など呼称に過ぎません。陛下が申し上げろと仰るなら、私はその名を申し上げましょう。ただ、何もしていないというのに、こうも武器を構えられては落ち着いてお話もできないですわ」



後ろにいる部下だと思われる人物が私に銃の標準を合わせ、いつでも撃てるように狙っているのを指摘すれば、周りは驚く。もちろん陛下も驚いているが…そんなの私は関係ない
まだ、何もしていない私に危害を加えるようものなら、正当防衛をとってもかまわないだろうけど



「…武器を下ろせ」

「しかしっ!陛下」

「この者の言うとおりだ。一般人に武器を向けるなど無礼にも程がある」

「恐れ入ります陛下…。もう一つよろしいですか?」

「よかろう」

「私は陛下を民を傷つける気は一切ございません。ですが、私の一言が陛下にとって都合の悪いお話であったとしても、今後武器を私に向けないでいただけますでしょうか?もし、そのようなことがあれば、私は自分の身を守らせていただきます」

「……よかろう」



あくまで私は当たり前なことを言ったまで、それは了承せざる負えないこと
さぁ、この後の一言でどう反応し、どういう態度を示すかな…?
私は最後まで聞ければいいのだから
は一度深呼吸をし声を出す



「では、改めまして。私は・ファン・シセレンテと申します」



シセレンテ…繰り返すようにつぶやきながら陛下の眉がピクリと上がる
他の兵士や家臣達も同様にざわつきだすが、陛下が手を上げ黙らせた
うん…賢明な判断で



「……敵国の者が何の用だ」

「敵国だなんて…。マルクトがキムラスカとうまくいっていないのは百も承知ではありますが、その言い方は酷いですわね。……いえ、失礼。どういわれようともう私の住まいはないですから。本日は我が姉の・シセレンテについてお話を伺いたく参りました」



姉の名前を出すとまたピクリと眉を上げる陛下に軽く呆れる
こうも、表情が出やすいのもいいものかと疑問を持つ
髪の色が違う娘は父を心配してなのかお父さまと呟いている



「……なぜそれを聞く?」

「姉の死の真相を聞いて何がいけないというのですか?」

「私になぜそれを聞くのだ」

「恍けるおつもりで?姉はバチカルで命を落としました。それが理由にならないとでも?殺される前から、姉は所属していた神託の盾騎士団の任務でここを訪れていたはずです」

「それがどうしたと言うのだ…」

「姉は任務後殺されたと聞きました。……では、なぜ殺されたのですか?貴方との謁見後、神託の盾兵は見てないと語ったそうではありませんか」



は怒りを露にし、拳を握り締めてる
あの姉が、魔物ごときで殺されるはずがない
姉の部隊に所属していたものは皆口を閉ざし一向に話してくれないのだ



「それは……」

「第七譜石──これが関係しているのではありませんか?」



第七譜石それは昔シセレンテ家とフェンデ家が管理していたユリアが詠んだ秘預言
教団にも知られてなかった場所にあったそれを狙っていたのでは?



「何をおしゃる!陛下がそのようなことを」

「えぇ…あなたが知らないだけかもしれませんよ?口を閉ざされてしまってはわかりかねますが」

「それにおぬしのような子供に聞く権利などないわっ!」

「左様ですか!分かりました。なら、もうお伺いすることなど何もございませんわ。ここにいるだけでまるで見下されているように感じてしまいますから」

「貴様ぁっ!」



感極まって1人の兵士がに切りかかって来たが、はこれでも神託の盾騎士団に所属している者、軽々と避け護身用に持っていたナイフで、切り付ける

本当は使いたくなかったと呟いて
そう…本当は使いたくなかったのだ



「なっ!」

「言ったでしょう?次に武器を出したら自分の身を守る…と」



これがが後に地獄案内人と呼ばれる理由
自分のためなら一般人でも傷つける
例え自分の服を汚してでも



「貴様が陛下を侮辱したからだろ!」

「侮辱…へぇ…先に侮辱したのはあなた方では?私もある程度の侮辱は受けるつもりでしたわ。しかし、私にもプライドというものがございます。いくらなんでもひどいのではございませんか」

「敵国の人間がっ」

「敵国の人間でも、謁見を希望し足を運んでいるのだから、最低限のマナーは守るべきかと私は思いますが…。娘さんに悪いことをしましたね。それでは失礼いたします」



ナイフについた血を払い、ドレスに付いてしまった血をローブで見せないようにしこの場を走り去った
後の部屋からざわめく声と金属がこすれる音が聞こえるが気にしない、アイツらが悪いのだから

城を出て直ぐにあるファブレ家……今すぐ乗り込んで真実を話したい気持ちを必死に押さえ、下に行こうとした
今はそんなことしている場合ではない

ドンッ

前を見ていなかったからか人とぶつかりお互いに尻餅を突いた



「大丈夫?」

「はっ?あ、あぁ」



急いで立ち上がりぶつかってしまった男の子をみる…あぁ…赤髪──ファブレ家
湧き上がる何かを必死に抑え込み、その子の手を引き立ち上がらせる
血を見せないように気を付けながら



「ルーク!」

「ガイッ!」



そこに現れたのは昨日少し喋った少年
ガイと呼ばれていたからやっぱり、ガイラルディアだ…
あぁ…本当に復讐に手を染めてしまったんだね…



「君は昨日の」

「また会ったわね……って、言ってる場合じゃないんだった…じゃあね」



は黒い髪をなびかせ下に降りていった。
その時ガイが?と呟いていたのは近くにいたルークでも知らない
そのあとすぐに親衛隊の者が現れガイとルークは顔を見合わせる



「ルーク様!先ほどの者に何もされませんでしたか?」

「先ほどの者?」

「そうです。先ほどの者は陛下を侮辱し無罪な兵士を切ったのです!」

「あーだから服を隠すようにローブを着てたのか…」

「俺は何もされてない」

「それならいいのですが」



親衛隊の兵は下に降りていった
ルークは首を傾げガイの方を向く




「なーガイ、アイツあんなことすると思うか?」

「さぁ?どうだろうな。部屋に戻るぞ」

「…あぁ」



2人はファブレ家に戻って行った


***


軽く荷物をまとめバチカルを出たはバチカル近くの丘に来ていた。

凄く綺麗だった

大っ嫌いなバチカルが一面に広がってはいるが、こうして町並みを見ていると綺麗だった。



「お待ち下さい!シセレンテ様!」



もう兵士が追いついて来たのかと思いながら振り向くと鎧を来ていない一人の男が丘に上って来た
何が起きるかわからない
鎧を纏っていない人間ほど強かったりするのだから



「ッ!何か?」

「お話があります」

「んだよ。今さら」



いつの間にか1枚目の仮面は外され神託の盾にいる時見せる仮面になっていた
もう、は居ないんだ…ホドのは……



「貴女の姉を手に掛けたのはこの俺です!」

「それがなんだって言うんだ!どうせアイツが命令したんだろっ!」

「そうです。陛下が命令致しました。殺せと……だから俺はここで殺しました」

「ここで?」

「はい。貴女の姉は任務が終わった次の日ここでこの街を眺めていました」

姉様が?」



兵士はここで一回切りをみた

ウザいぐらいに真直ぐな視線に目を逸し、その話を聞いていた
あの曇りのない瞳はオレには眩しすぎる…



「自分が殺されると分っていたみたいです」

「嘘だろ?…秘預言を見た訳ではないのに」

「そして貴女に伝言を頼まれました。きっと理由を聞きに貴女がやって来るとおしゃって」

「オレに伝言?」



もうすっかり神託の盾の生活に慣れてしまったは一度仮面を外してしまったからか再び仮面を付けることはできず、一人称をオレへと戻した



「はい。『どうか、復讐などに目を奪われずに楽しく生きて』と」

「まるで、オレが復讐しようとしてるの分っていたみたいだな」



気がつくと目には涙が溜まっていた
さすがは姉様
なんでも見透かす…



「詳しい理由は俺には分かりませんが、あの時、兵を傷つけたのには何も言いません。むしろ正しいと思います。」



なぜという言葉が出てこなかった
頬を伝って落ちる涙を拭きとることもせず彼の言葉に耳を傾けていた
きっと、彼は理由を教えてくれるはずだと意味わからない仮説を立てて



「最初に忠告していたのに切りかかって行った我が兵が悪いのです」

「すみません………少しの間泣き付いてもよろしいでしょうか?」

「…えぇ」



とても優しい兵士だった。まるで、オレの気持ちを分かっているかの様に接してくれた
いつまで泣いていただろうか日は真上を通り越し下に降りて行こうとしていた



「ありがとうごさいます。助かりました」

「船はどうしますか?」

「バチカルからは出られないでしょうね。この格好では」

「そうですね…おそらく港はすでに兵が警備をしているでしょう」

「でも、バチカルから乗ります」

「どうやって!」



はニッコリと笑って兵士を見た
目は赤く腫れているがその笑みは心からでたものであろう



「実はオレ今神託の盾にいるんです。バレない様に男装をして」

「あぁ!だから一人称がオレなのですね!」

「何も突っ込まないでくれ」

「また会えるといいですね」

「そうだな」

「あそこに小さな小屋があります。そこで着替えたらいいでしょう」

「わざわざありがとうな。それと…」



はカバンから鎖の付いた金の懐中時計を取り出しその兵士に渡した
彼ならきっと私より大事にしてくれるだろうと信じて



「これは…?」

「貴方が持っていて下さい。姉のです。きっと姉も喜びます」

「それなら俺も」



今度は兵がナイフをに渡した
そのナイフはきれいに装飾がされており、殺傷能力が低いものであろう



「俺のですが…大切にしてください」

「分かりました!ありがとう」



こうして、は小屋で着替えダアトにその兵士は丘を下りバチカルへ帰って行った
数年後また出会うことを信じて

姉様喜んでいると良いな

死んだ姉様にとって今日は最高の誕生日になります様に私・ファン・シセレンテは願います







後書き
彼女がまだ、神託の盾に入って間もない頃の話
2013.8.24、オリキャラの名前をレオ→フィンに変更
2017.6.9、内容少し修正