って変わったよねー」
「は?いつの頃から比べてんの?人生山あり谷ありなんだから変わるでしょ」
「それにしても変わりすぎだよー。昔はあんなに可愛かったのに。今も可愛いけどっ」

カフェでパフェを食べながら会話に花を咲かせる休日の午後
普通の友人だと日常報告で終わる会話も幼馴染の前ではそうもいかない。生まれた時から共にいる彼女はよく昔話を持ちかける。哀れむような意味ではなく本当にただの思い出話として

ヒラヒラふわふわのワンピースを着る彼女とは違い、今日はピッタリとしたパンツスタイル。時には逆になる事もあるその不思議は、二人をあまり知らない人は趣味がわからないとよく首を傾げている。服装なんて人それぞれじゃん。着たい時に着るそれが一番だよ
どっかの兄と似た言葉を脳内に繰り返し、笑う
──話が逸れた

「はは。悠子も可愛いよ。ま、変わったのであれば良い意味でも悪い意味でも兄の影響しかないでしょ。あのクソニート共」
「可愛いとかに言われたら照れちゃうわー。クソニートとか言ってるけど大好きなんでしょう?」
「愛故の?」
「そこで首かしげるのがあざとい」

ケタケタと笑う悠子と私。あざといなんて、自分の兄みたいだと顔をニマリとさせた
私には世にも珍しい六つ子の兄がいる。一卵性でそっくりな顔をしている兄だが、纏う雰囲気や性格はまるで違っていた
根本は同じ。ただ独自の道に行き過ぎたためにグニャグニャと曲がってしまった。まるでパラレルワールドの世界で暮らす同じ人間が一箇所に集まった様な……。
根本は同じ故皆クズで妹に優しい。妹想いな性格は端から見たら羨ましいのかもしれない

「ところで今度のコミケどうする?」
「え。今繁忙で新刊描ける気がしないんだけど……何描いて欲しいの」
「流石♪あのね!兄弟創作をね。くださいっ」
「またぁ?好きねぇあんた」
「あ、でもね今回実録じゃなくってマフィアパロがいいの!」
「……そりゃあまた。かてきょでも読み漁った?」
「てへ。でね、決まってる設定だけど……」

コテンと首をかしげる悠子に一瞬の殺意を覚えたが、パロなんて久しぶりだと笑う
でもよりにもよってマフィアかと頭を抱えたのは事実。マフィアなんて知識マンガしかないんだけど

長男はボス。基本グータラしてて動かないが、動いたら最強。家族愛に溢れている
次男は右腕。動かぬボスの護衛でよく血だらけ。強いが当たって砕けろタイプ。脳内筋肉パート1
三男は参謀。ボスの手間をかけないように作戦を組み立てる。天才ハッカー。戦闘能力は低くない
四男は拷問者。情報を吐かせるのが得意。表に出ないが出たら敵は知らぬ間に全滅
五男は戦闘狂。真っ先に突っ込んでく。攻撃は最大の防御。考えてないようで全て考えている。脳内筋肉パート2
六男は情報通。しょうもない噂話から隠密に動いている国の動きまで、彼に入ってこない情報はない

「……夢持ちすぎじゃない?」
「いいじゃん創作」

ニシシ…と笑う悠子に溜息一つ。いやね。勝手に設定持ってきてくれるのは嬉しいんだけど……それ以降考えるの私だから。一緒に考えてくれる?
ガサゴソとカバンを漁りスケッチブックとシャーペンを取り出す。最近出かける時は必ず持ち歩くそれは、私のネタ帳であり宝物だ
後ろの方の空いてるページの左上にマフィア松と書き込んでシャッシャとシャーペンを走らせる
悪そうな顔を描き込んで、着崩し満載のスーツを着させて、タバコを吹かせれば、あら不思議。長男様の出来上がり

「こんなん?」
「わ、やべ。イケメンやー」
「本体クズですけどねー」
「はは辛辣ねーちゃん。で、名前をさ、遅、唐、速、壱、柔、留にしよ。コードネーム的な」

パフェを頬張りスマホで打った字を見せてくる。実名に近いそれはまずい気もするが、コードネームならまだマシか。と書き込む。
さて、唐でも描きますかと再びスケッチブックに視線を戻した時、ふと視線を感じた。悠子かと思って顔を上げるが、悠子はスマホに夢中だ。じゃあ誰が……と窓の外を見れば、紫のパーカーを着た兄がこちらを見ていた。目が合うといつもはしない表情で笑い、スケッチブックをガン見している
──やばい!!
パタンッとスケブを閉じるのと、兄がジェスチャーでそこ行くねと指を動かし、そこから離れたのはほぼ同時だった
不思議そうにこちらを見る悠子に兄が来た……とスケッチブックをカバンにしまって証拠隠滅する。ついでにパフェの最後の一口も頬張っておく
数秒もしないうちに、店員に案内をされて来た一松兄さん。そういえば今日は珍しくマスクが付いていない

「本当に来た……」
「あ、一松さんかぁ」
「そう……で、どうしているの?」
「散歩の帰り……何描いてたの?」
「何も描いてないよ……ちょっと待って。猫触ってきたなら手洗ってから座って」
「うぃ」

猫背で手をポケットに突っ込んでお手洗いへと歩く兄に手を振り、お冷とナプキンを持ってきてくれた店員にメニューを頼む

「え。なに描いてる事バレてるの?」
「んー。猫描いた事があるからそれでじゃないかなぁ。バレてないよ」
「なんだぁそしたら、面白かったのに」
「絶対嫌……兄弟をモデルにBL描いてる、なんてバレたら生きていけない」

嫌々と頭を振って否定を続けてたら、どうしたの?とお手洗いから帰ってきた兄が問う。なんでもないと返して、メニューを差し出す
そんな様子を微笑ましく見る悠子を今すぐ殴りたい。でも兄の前じゃできないので、ガツンと足を蹴っておく
いっ!と痛そうに顔を歪める悠子にニヤリと笑い返す。兄?メニューに必死で見えてないよ

「あ、でもおれお金持ってない……」
「だと思った。いいよ奢るよ……ただ、ナイショね」
「言わない……バレたら面倒」
「奢るとかちゃんったら太っ腹〜。ついでにわたしのも奢ってよ」
「悠子ちゃん?何か言った?(描かないよ)」
「冗談だって!(困る困る!!わたしの妄想)」
「本当に仲いいね。昔から」

クスクスと笑う兄に首を傾げる。あれ?一兄ってこんな感じだったっけ?
すみません。と店員に声をかけ、コレ……と少し恥ずかしそうに注文する兄。何を頼んだのかと横目で見れば、小ぶりでフルーツいっぱいのパフェを頼んでいた。あぁ……そういうこと。

「生まれた時から一緒にいる幼馴染ですから。血は繋がってないけど双子みたいなものってわたしは思ってます」
「あら悠子嬉しいこと言ってくれるじゃん。奢らないけどな」
「チッ。あ、わたしそろそろ時間なので、おいとましますね。あとは仲良くごゆっくり」
「もしかして、邪魔だった?」
「いいえ〜。じゃ、楽しみにしてるから」
「はいはい。連絡するから」

さらっと千円札を置いて、リュックを背負った悠子に手を振った
その間に兄はサラリと向かいの席に移動し、チビチビと水を飲んでいる。その姿は猫のようだ
──てか、千円って。払い過ぎなんですけど。駄賃って事で貰うからね
兄の分の足しにしてくれという意味なのだろう、これは。まったく……昔からそうなんだから
溜息一つ吐けば、店員がパフェを運んできた。先ほどとは違う店員故、私のところに置こうとするのをやんわりと断り、兄にと手で示す。慣れてないのか一瞬戸惑い、兄のところにパフェを置いた
いただきます。と静かに声を発する兄は、やはりどこか嬉しそうだ

「一兄今日いい事あった?なんか嬉しそう」
「なかなか懐かなかった猫……漸く懐いたから」
「あぁ、だから最近怪我して帰ってたの。猫神さまが珍しい」
「べ、別に猫神じゃないし……っ」

照れたのか、目の前のパフェをがっつく一兄。美味しかったのか、ぽわ〜んとした雰囲気が溢れ出る
──闇松とか言われてるけど、そんなことない気がするんだよねぇー。どっちかって言ったら闇を抱えてるのは違う兄だと思うんだけど
確かに、高1ぐらいまでは優しくて真面目で明るい雰囲気の兄だったけど……でも、今も優しくて真面目な兄だと思う。明るさは吹っ飛んじゃったけど
高校時代の事はみんなあんまり語りたがらないからなぁ。私含めて
だから、一緒にいたほんの一年だけの事しか知らない。それも自分の身に降りかかった時とか、噂で聞いたような話ばかりで、高校時代の兄達なんてほぼ分からないのだ
──そんな兄でも好きだと思えるのは、きっとあの時みんな必死で支えてくれたからだと思う

「何考えてるの」
「内緒」
「ふうん。ひとくち食べる?」
「え。いいの?貰う」
「だって金払うの

いつの間にか反れた話題になっていた私の思考は、一兄に声をかけられるまで続いた。ひとくちと目の前に出されたスプーンを二度見し、口を開けてパクリと頬張る。さっき食べたチョコレートパフェとはまた違う自然の甘さが口の中に広がった。あー、やっぱりフルーツパフェも美味しいなぁー。今度こっちにしよう
ふわりと笑った表情に一兄は満足したのか、ひとくち自分でも食べる
さて、端から見たら私達は何に見えるのだろうか?カップル?やっぱり兄弟?ま、気にしませんけど
さらっと、さっきのスケッチブックとは違うスケッチブックを取り出し、さらさらと猫の輪郭を描く

「今日の夕飯聞いてる?何色の猫なの?」
「んー。なんて言ってたかなぁハンバーグだったかな。何描いてくれるの。白だよ」
「じゃあ、手伝わないと。……んー。こんな感じかなぁ」

パフェをゆっくり頬張っていた一兄の前に出来た絵を見せる。デフォルメされた一松に寄り添う一匹の猫。お互いの表情はどこか嬉しそう
一兄は思わず持っていたスプーンを落とし、食い入る様に絵を見ていた──そんな気に入ったか

「欲しい……」
「今画材ないからお家帰って色塗ったらね」
「いいの?」
「減るもんじゃないし」
「もうひとくち食べる?」
「じゃあ遠慮なく」

今度はパフェの器ごと渡す兄。半分以上は減っていたが、まだまだ美味しいところが残っている。自分の金だしと遠慮なくひとくちいただき、兄に器を戻した
その間も緩みきった表情で絵を眺めている
そんな凝視されても……なんか恥ずかしいんですけどぉー。てか、キャラ違くない!?ねぇ。根暗で卑屈どこ行ったの!?
……あ、でも

「今日の一兄……昔みたいだね」
「え……」
「あ、いやなんでもない」
「どうせ生きる価値のない燃えるゴミだよ、おれは」
「兄さん自殺したら私も死ぬから」

あちゃー禁句。パフェを食べようとしていた口をパクッと閉じて目線を左下に向け、ボソボソと自虐する一兄の姿に思わず呟く。それはさらりとスルーされた。とは言っても今はお互いに死ぬ気はないので冗談でしかないのだが

「……そういうこそ、今はしてないんだよね?」

最後のひとくちを食べながら平然と言われた言葉に、思わず目を見開く。傷なんて付いていないのに隠すように左手首をさすってしまった
その行為を不審がることなく、ただただ兄は言葉を待ってる。自分の行動に動揺を隠せなかったが、腕を捲り傷口がない事を見せながら、否定を述べる
その言葉だけで満足したのか、なら良かったと一兄は笑みをこぼした

「さ、帰ろう。母さんの手伝いしなきゃ」
「そーだね……ねぇ一兄」
「ん?」
「助けてくれてありがとうね」
「助けたのはおれじゃないよ」
「それでも。私の要になってくれたのは兄さん達だから」

夕日に照らされた兄の顔を見れば、珍しくマスクをつけていないその顔は、ほんの少し赤く染まっていた。それが夕日なのか照れなのかは二人だけの秘密にしておこうかな。

その後着色した絵をツイッタ―にアップしたあと兄にあげたら、それはもう喜んでおりました。秘密のボックスに保管されてたことだけ述べておきます。
一松兄さんネタ提供あざーす!
因みに一番喜んでたのは多分悠子だったと思う。ラインで発狂された後に、スカイプでも発狂された
作業手伝ってくれてありがとうね悠子……。マフィアパロ頑張るよ


 


あとがき

こじらせたらすぐ書く…そしてまた休止する。
いつものパターンですがお付き合いください…