鉢屋と若干距離をとって教室に入れば先程より多くの人がいた
カバンを置いた席に向かい、周りを見回す
この席は左から3番目前から6番目
一番後ろではないが、クラスを一望できる席でもある
席に着いて乱雑に置いたカバンを整理し脇に掛ける
「で?なんでお前がココなんだ」
「名前の順だから仕方ないだろ」
そう、の隣は先程知り合った鉢屋三郎である
嫌そうに目細めれば、鉢屋も似たような視線を向ける
と、鉢屋の席の後ろに座る男がむくりと顔を上げた
因みに私の後ろはまだ寝ている
「三郎、どこ行ってたの?」
「雷蔵!水道場に行ってたんだ」
「なに、ナンパでもして来たの?」
「違うぞ雷蔵」
鉢屋の後ろの席の住人─鉢屋は雷蔵と呼んでた─彼は鉢屋と同じ顔を持ち─でも、彼の方が優しそう─鉢屋に向かってニコリと笑っていた
「三郎には気をつけた方がいいよ。僕、不破雷蔵。そこにいる三郎の従兄弟なんだ」
「はは、忠告有難く聞いておくよ。私は。不破か…てっきり双子かと思ったよ」
「よく言われるよ。そうそう、雷蔵でいいよ。さん」
「じゃあ、そう呼ばせてもらう。でもでも好きに呼んで」
「じゃあ、ちゃんでいいかな?」
と、鉢屋をおいて交わされる会話に鉢屋は拗ね、雷蔵なんか…と呟きながら顔を机に向けている
先程と違った態度に笑いが込み上げてくるが、ここで笑うと怒られそうだと感じ、押しとどまる
「三郎なーに拗ねてんだ?」
と、突然聞こえて来た言葉に顔をそちらに向ければ、二カッと笑顔を向けた男が立っていた
そう、あの時一番始めに聞いたアウトドア系の男だ
着崩した制服に着いてるネクタイは校章が細々とプリントされている物
中学から入った事を表すデザインだ
「別にー拗ねて無いし」
「ふうん。な、それよりも俺竹谷八左ヱ門!お前は?」
どうやら彼は鉢屋よりも、私に興味があるらしく、二カッという笑みを私にも見せ右手を出し自己紹介をして来た
「…、好きに呼んでくれて構わないよ」
「お、ならって呼ばせてもらうな!俺の事はハチでも八左ヱ門なんでもいいから!」
「じゃあ、ハチで」
一日でこんなにも自分の名前をいうのはどれぐらいぶりだろうか…中学は小学校からの持ち上がりが多かったせいかそんなに自己紹介はしてない。
それに一斉に済ませてしまった気もするし、兎に角久々である事は確かだ
「てか、お前らずるいよなぁ!席近くて!」
「名前的に仕方ないだろ。」
「ん?ハチって席どこ?」
「…そこ」
と八左ヱ門が指した場所は、の列の一番前
俗に言う特等席ってヤツ
「ははっ!いい席じゃないか」
「ふざけんな!どこがいい席だよ!」
「案外先生って近くのもの見えないよね」
と、少し首をかしげる
確か視野的に遠くの方を見てしまう事を聞いたことがある
更には教壇があるために少し高くなっているその場所からは後ろの方がみやすい
「そうなのか!?」
「本当かどうかは知らないよ」
項垂れていた八左ヱ門はの言葉に一気に機嫌を取り戻し嬉しそうに笑った
──何故か、その笑顔が夢に出てきた誰かと被って見えた
あぁ…紅い血が見える
「席につけー」
その言葉にハッとして前を向けば先生が入ってきていた
竹谷は急いで自分の席に戻る
我に返ったから紅い血はもう見えないが気持ち悪い
ゴシゴシと手を擦る
もうそれは癖でもあった
手を擦れば落ちる気がして
こんな思いをしなくていいと思って
「ちゃん?」
突然後ろから声をかけられた
その声に反応し手を擦るのを止め後ろを向けば雷蔵が心配そうにこちらをみていた
「どうしたの?」
「なんでもないよ」
「…………ちゃんの手綺麗だよ」
「っ…どうして?」
「なんとなくかな?」
でも、確実に言えるのは僕の手の方が穢いっていうことかな
と最後の言葉は先生の声にかき消された
ただ、その言葉を唯一聞けた鉢屋は顔をしかめ自分の手を見るのであった
蘇るは前世の記憶
約500年ほど前の忍者としての記憶
数え切れないほどの人を殺した人殺し
生きるためと割りきって手を染めた
──あぁ、願わくば彼女の記憶蘇らせてはくれないか
例えそれが己にとって嫌なことであっても
彼女と共に。あの時近くにいなかった彼女と共に過ごせるときが来たのだから…
後書き
鉢屋くんは気付いたんです…あの時に