あの後特に何もなく担任の自己紹介を軽くし、そのまま体育館に向かった
中等部と同時にやる入学式は赤と緑の制服が入り交じっていた
高等部の新入生の言葉は兵助だった
中等部は誰だか知らないが初等部からの持ち上がりの子らしくて雷蔵が嬉しそうな顔をしていた
首をかしげていれば委員会が同じだった子なんだと耳打ちしてくれた
その後も何事もなく進み入学式は終わりを告げ今現在は教室でホームルーム中だ
そして、兵助にはバレてない…と思う
私名前なんて兵助と違ってそんな珍しくないから


「…の番だぞ」

「あ…っ」


三郎のその一言で思考が停止する
自己紹介中だったのすっかり忘れてた…
クラス中から来る視線に辛さを感じながら椅子を引いて立ち上がる


「初めまして、と言います!今年からなので右も左もわかりませんが、迷子にならないように頑張ります。こんな私ですがよろしくお願いします」


さっと笑顔を作り愛想よく振る舞う
そんなに三郎と雷蔵それにハチは目を見開いた
何がいけなかったのさっと声に出さず発すればごめんと三人からジェスチャーが入った
そんなことは裏腹に自己紹介は次の人へとバトンが渡されている
次の子はギリギリまで寝てた子で顔すら見てない


「桐立佳子です。あまり馴れ合う気はないですがよろしくお願いします」


私は後ろを向いて桐立さんをみる
リボンは私と同じ緑の無地。同士だ
そのまま視線を上に持っていき顔を見る

──ドクンッ

その顔に見覚えがあった
何処で?と言われれば答えられないが確かに見覚えがあった
真っ黒な髪に自然と整えられた眉
少し灰色がかった瞳はうっすら輝いていた
自然と懐かしさを覚えた


「お前は…」


そう呟いたのは三郎だったか
桐立は声が聞こえた方に顔を向け静かに口を動かす


の記憶は思い出させるな


声は発せられなかった
故には首をかしげるが三郎はしっかりと読み取れたのか苦虫を噛み潰したような表情をする
それを無視し静かに座る桐立
それを見て隣の列の前の人が立ち、また自己紹介が始まる

数分もすれば順番は三郎に回ってくる
三郎は静かに立ち上がりぐるりと視線を一周回した後ニヤリと笑い口を開く


「知ってる奴も多いと思うけど鉢屋三郎だ。八左ヱ門の弱味が欲しい奴は俺のところに来い」

「三郎ふざけんな!」

「冗談だ…俺は立花先輩ではないからな」


ガタンと音をたてて立ち上がり罵声を飛ばす八左ヱ門に三郎は笑い飛ばす
あの言い方は絶対冗談じゃなかった…
そのまま三郎は座ってしまうもんだから雷蔵が困った顔をして立ち上がる


「…初めまして、不破雷蔵です。三郎とは双子ではなく従兄弟です」


えっ…とと同じ色のネクタイとリボンを着けた人達は皆、呆然とする
当たり前だ
一卵性の双子のごとく顔がそっくりである
けれど、まとう雰囲気には若干の違いがある
三郎の方は悪戯好きな顔をしており
雷蔵は優しそうな顔をしている
しかしあくまでそれは“雰囲気”に過ぎない
いくらでも変えることができるだろう
故の悪戯顔なのかもしれない

そのまま自己紹介は流れていく
次は何かと思えば委員会決め
入らなくてもいいらしいが、なんとなく入らないといけない気がした
目の前の黒板に書かれていく委員会を見て何にしようかと考える


「まず、学級から決めるか」

「俺がやる」


立候補制で一番に手をあげたのは三郎
三郎を昔から知る人は三郎が学級委員をやるのは納得のようで半数以上の人が頷いていた
それがきっかけとなったのか次々に決まっていく
雷蔵が図書委員
ハチが生物委員
桐立さんが選挙管理委員


「最後、保健だが誰かいるかー」


と言う声にハッとする
──どうしてか、ここに入らなければならない気がした


「私やるよ」


スーッと手をあげた私に三郎は目を見開き後ろの二人は呆れた顔をした


「保健って不運が入る委員会だぞっ」

「ふぅん。別に良いじゃないか私が入ってそのレッテル剥がしてやる」


と威勢よく呟いたのはいいが、それが無理な話だと知るのはまだ先の事である

全部決まった委員会のメンバーを三郎が記入──早くも学級委員長の出番だ
その間に軽く委員会の説明を受ける
基本持ち上がりの委員会らしく委員会の時は小一から高三までが集まるという
大学にも委員会などはあるらしいがまた違った体制らしく詳しくは知らないようだ
委員会の内容はその時々で違うらしく、委員会なのに部活のごとく走り回ると時もあるようだ
学校全体でやる学校行事は生徒で企画運営をするらしく一番ドタバタしてるのは生徒会と言っていた

三郎が書き終えたと同時にガラガラと隣のクラスが椅子を引く音が聞こえてきた
隣のクラスは終わったのだろう
このクラスはまだまだらしく先生は遅刻はするなという注意から入り長々と話し出す
三郎は飽きたのか携帯を取りだし何かをしている
手の動きをみるにメールかなと思う
動きがとまって画面が消灯したと思えば直ぐに画面が光りブルッと震える
その瞬間の三郎顔は悪戯っ子がよくするものだった


「これで終わりだ」

「きりーつ、れい」


とやる気の無さそうに仕事をする三郎にみんなは笑い別れを告げる

さぁ、私も帰るかと机の上に置かれた物を全て鞄に突っ込む
あぁ…書いてもらわないといけない書類が一杯だ
親は先に帰った
探検でもして帰れば良いよ、と冗談混じりで行ってくれた
…別に探検なんてする気はない
それよりもこれからは兵助に会わないようにしなければならない
──そのとき私は忘れていた。雷蔵たちが兵助と仲がよかった事を


「待て


片付けが終わり帰ろうとしたときだった
三郎がの腕を掴み行く手を阻んだ


「なに?帰るんだけど」

「この後一緒に遊ばないか?」

「三郎ナイスアイディア!遊ぼうぜ」

「そうだね、勘右衛門とかも呼んで」

「因みに兵助と勘右衛門には了承済みだ」

「っ…行かない!てか私の名を呼ぶな鉢屋」

「ずるいぞ、雷蔵たちは名前なのに俺だけ苗字なんて」


私の意見なんて聞かないようで一向に離してくれない鉢屋
そんなことはどうでもいいんだ
兵助が来る、それなら私は行かない
でも、彼らは兵助と私が幼馴染みなのを知らない
どうやって断る?


「は?そもそも私はお前に名前を呼ぶのを許可した記憶はない」

「なら、呼んでいいか?」

「却下だ」

「なら、離してやらない。ついでに名前で呼べ」


ニヤリと笑う三郎は絶対に了承するまで離してくれないだろう
早くしないと兵助が来てしまうじゃないか


「…わかったよ、好きにしろ」

「じゃあ、遊ぶかっ!」

「それとこれとは話が別だ!」


まだ離してくれない三郎に苛立ちを覚える
よく見てみろクラスの人、ほとんどいないじゃないか


「三郎ーっ!」


奥から呼ぶ声が聞こえる
ほら、誰か呼んでるから離せ


「あ、勘右衛門」

「遅いから迎えに来ちゃった」


語尾に星が付きそうなほどお茶目に言われたセリフに三郎は溜息を吐く

後ろを向いてるせいで誰がいるか分からないがさっき聞こえた足音は2つ
あぁ…多分そこにいるよね


「で、なに三郎ナンパしてんの?」

「してないからな」

「でも、手掴んでるのだ」


その声にビクリと肩が一瞬上がる
もう諦めるしかないか
そう思って三郎を見る
三郎は考える素振りをした後私に顔を向ける


「で、お前も行くか」

「…勝手にしろ」

…?」


三郎が呼んだ私の名前に兵助は復唱する
私は諦めたように三郎に手を掴まれたまま兵助の方を向く
兵助は少し傷ついた表情を見せていた










後書き

桐立さん。彼女はこの作品唯一のオリキャラ(モブ以外で)
彼女も転生してきた子。主人公のよき理解者でした。