…?」

「なに」



傷ついた表情を見せた兵助に怒りが込み上げ、久々に低い声が出る
思わぬ声に三郎たちが目を見開くのが分かる
そんなことは気にせずに、ただただ兵助を見る
兵助は未だに傷ついた表情をしている
じゃあ、私は…?
あの日傷ついたのは誰?
私達の関係が壊れたあの日
いったい誰がいけないの?

兵助を視界に捉えない様に目を瞑れば、蘇る数年前のあの日のとこ

***

幼い頃私達は悪夢をよく見ていた
私は陽の夢が多かったが
兵助は陰の夢が多く寝れない日が続いていた
ただ、二人で共に入ればその悪夢も少しは和らぎ、睡眠を採ることができた
故にと兵助は必ずどちらかの部屋で共に寝ていた



「おはよう」

「…っおはようなのだ」



ある日の朝から兵助の様子が可笑しかった
何か否、誰かを捜しているかのごとくキョロキョロと落ち着きがない
私が理由を聞いても首を振るだけでなにも話してくれない
その日からかもしれない…私と兵助の関係に少しずつ歪みが入り込んだのは

それからしばらくして、兵助と私は一緒に寝なくなった
年頃というのとはまた違った拒絶の仕方に私は不安を覚えた

の夢は徐々に悪夢へと変わり睡眠を阻む

卒業の時が近付いた
私は兵助が同じ中学に行くと思い込んでいたんだ





「なに?」

「兵助くんって大川学園行っちゃうんでしょ?」

「…は?知らないよ、そんなの」



初耳だ
そんな話一言も聞いていない
……あれ?最近兵助と会話したのいつだっけ



「クラスの男子から聞いたけど…」

「そう…ありがとう」



帰りにでも聞いてみようと思った
それが私達の歪みを深めることとは知らず…



「兵助!一緒に帰ろ」

「……あぁ」



久々に一緒に帰る
ここ最近は共に帰ることをしなかった
兵助が妙に避けるから



「明日卒業だね」

「…そうだね」

「大川学園行くの本当?」



“大川学園”その言葉を出した時兵助の肩が上がるのを見た
──そんなに私に知られたくなかったの?



「…うん」

「なんで教えてくれなかったの?」



私は兵助の前に出て立ち止まる
私達はただの幼馴染みだったってこと?



「それは…」

「最近の兵助可笑しいよ…」



その言葉が兵助の何かに触れたらしく、兵助は立ち止まり拳を作りを睨み付ける
その瞳にひゅっと息を呑む
……なんて冷たい目なんだろう



「可笑しいのはだろ!なんで…」

──思い出さないんだ



最後の一言は車の音にかき消された
兵助は目を閉じる
は目を見開き兵助を見る
──はなにを言われているのか分からなかった



「兵助…寂しいよ」



共にいた兵助がいなくなるのは…
まだ目を瞑る兵助の手をつかむため、手を伸ばす

パシッ!

兵助の手をとる前に兵助の手によって手が弾かれる



「触るな」

「…なんで?昔みたいに手繋ごうよ」

「っ何も知らないくせに、知ったような口を訊くなよ」

「…っ」



完璧なる拒絶だった
そう、兵助の事なにも知らない
夢の事も話してくれない
誰を捜してるかも教えてくれない
勝手に受験する
──なにも教えてくれないから



「俺達ただの幼馴染みだろ!」

「っ!あぁそうっ!なら勝手にするよ!」

「……

「心配してたのにっ!兵助なんて…大嫌いだ」



初めてのから拒絶に兵助は悲しい表情をする
そのままは走り去る

一人残された兵助は拳を握りしめ、静かに一粒涙を流した

次の日に一つピアスを開けてきたにみんなは驚いていた


***


何も言わない二人に周りはあたふたと交互に見るだけで、なにもしない
否、二人の雰囲気から口を挟むことができなかった



「なんで…」

「別によくない?」

「だけどっ」

「あぁもうっ!五月蝿いなっ!何も知らないくせに知ったような口を訊かないでよ!」



いつの間にか自由になっていた手で兵助の手を弾く
まるであの日、兵助がやったように



「私の中学三年間を知らないくせに!そっちは捜し人が見つかったようで何よりだね」



何に対して怒っているのか
何に対して拒絶しているのか
何を見ているのか分からなかった
あんなにも嫌いと叫んだはずなのに兵助を見た途端、安堵した私の感情がわかんない
次々と溢れ出る言葉は一体何なのか



「ストップ!君さすがに言い過ぎだよ」



二人の間に入ったのはドレッドがかった髪の持ち主
兵助を連れてきた張本人だ



「勘ちゃんごめん…」

「俺は別に構わないけど…知り合い?」

「…ただの幼馴染みよ」



少し邪魔になってしまった髪を耳にかけ兵助を見る
──なんで、そんな傷ついた顔してるのさっ!私が悪いみたいじゃない



…ごめんなのだ」

「…なによ」



兵助は頭を下げる
声は幽かに震え拳を握りしめている



「俺…あの時、夢を見る理由がわかって…なにも知らないに八つ当たりした」

「そう…」

「一緒にいてくれてたのに…ごめんなのだ」



その兵助の行動、その言葉に目を見開く
私の知る兵助に違いなかった
自分のせいと感じた事にはしっかり謝るそのポリシー
私の知る優等生で真面目な兵助に何ら違いはなかった



「…ただの幼馴染みって言われて、悔しかったんだからね」

「…うん」

「兵助の口からあの事は聞きたかったんだよ」

「ごめん……」

「…勝手に決めて、勝手に離れて、のくせに戻ってきてなんて図々しすぎ」

「わかってるのだ…でもやり直したい、と」

「馬鹿」



今ならわかるあんなに維持を張ってた理由
ただ単に彼らに嫉妬していただけ
すんなりと兵助の隣に居座っていた彼らに


「あぁ!これからよろしくなのだ!

「よろしく兵助」

「俺も俺も!尾浜勘右衛門って言うんだ!」

「あの時ありがとう、私、西島。なんて呼べばいい?」

「なんでも!でいい?」

「どーぞ、じゃあ勘ちゃんで」



勘ちゃんこと勘右衛門と握手する
彼にと呼ばれるのに何ら違和感を感じない
むしろ久しぶりの感覚に心が和らぐ



「落ち着いたところでどこかいこうか」

「さんせー!」

「お腹ペコペコだよ」

「案内頼むよ、みんな」

「おうっ」



兵助に手を引かれて歩く
久々の行動に恥ずかしさを感じるが流れに任せることにした

どこかでカチャリとパズルのピースが填まる音が聞こえた気がした…









後書き

うん……久々すぎてテキストの下手さがやばいな。