天女に奪われた彼

あの日から幾年の月日が流れ、世は平成へと移り変わった

そう、天女と呼ばれた少女があの時代に降り立つ前まで居た時代
決して同じ時間軸だとは思わない。否同じ時間軸でないことを祈る

人が産まれ、死んでいく……その理の中で、新たに生を受けた人々
生を受ける前の人生──前世と呼ばれているそれは、本来ならば記憶など存在せず、魂のみが転成されるもの

しかし、世の中は不思議であった
今の世から約400年もの前の記憶を持つ若者が、日本で新たな人生を歩んでいた
それも一人だけでなく、あの箱庭で生活を共にした仲間全員であった

その者たちは皆、記憶を頼りに一つの学園を探し当てた
そして当時の面々と再会を願うために

ただ二人だけ、出会えていない──
いつしかそれの気持ちに蓋をし、彼らは成長する

春が訪れ、桜が綺麗に咲き誇っている頃。なぜか今年の学園の桜はいつにも増して色強く、美しいと人々が呟いていた
今年は、あの当時六年生が高校へと上がる──つまり、約400年前の記憶と重なる年だ
蓋をしていた気持ちは溢れ上がり、期待に胸を膨らませる

今年こそ、潮江文次郎とと再会できることを──



***


「あー。と別クラスかぁ……みんなと仲良くなれっかなぁ」
「何言ってるの?はすぐ仲良くなるじゃない。てか、そんなこと言うなら私と同じ高校じゃなくたって……」
「違う!俺はと一緒にいたいんだ。あの時共有できなかった時間の代わりに!それに色々背負わせたみたいだし」
「……私は良いの。幸せだったから」


クラス分けの内容が書かれた紙を上からなぞるようにして名前を探す。は1組、は3組のようだ
別クラスになったことを悔やむようにが呟けば、は笑い、名簿に書かれた二人の名前を呼ぶ。それはかつての友の名前だった


「留三郎!また同じクラスだよ!」
「学園長の陰謀を感じるんだが」
「おい!それよりこれを見ろ!」
「「「「……っ!!」」」」


後ろから聞こえる、懐かしい声に涙が出そうだと、が鼻を啜れば、慣れた手つきでが頭を撫でる。後ろを振り向いて、人を確認すればそこに文次郎はいなかった
一緒じゃないのかと疑問に思うも、とりあえずは再会を楽しもうと一歩とゆっくり前に出る。それにも付いてくる


「そっか。あいつらも……」
「よかった。また一緒に居られるね」
「あの日のこと叱ってやらねば」
「ほどほどにして欲しいかな。覚悟の上だったんだから」
「「「「「!」」」」」
「そりゃあ、俺だな」
「え……?」
「あー。紹介するよ、双子の弟の。私はだから」
「初めましてー。俺が本物のだ。よろしく!」


困惑を隠せない一同に笑いが止まらない。前世の私はであり“”だったから、彼らは暫く慣れないだろうな。二人が存在していることに
この現世ではが生きることができるんだ。生涯を短い時間で終えてしまったが、一人前の大人になって老後まで生きられる。なんて幸せな世界だろうか。もちろん自分も老後まで生きるつもりはある。自分の本当の幸せさえ掴めれば
文次郎は?と必死に理解しようとしている5人に問えば、空気が重くなる。あれ?一緒だったんじゃないんだ。首を傾げれば、幼馴染かと思ってたぞと小平太も首を傾げる。結論として文次郎の行方は誰も知らないということで。まぁ、名簿に名前もあったことだし、同姓同名の人物でなければ出会えるだろうと自己完結


「わ!!」


普段よりも強い風が吹く。咲き誇る桜の花びらが舞う程に強い風が、7人の頬を撫でる。風がおさまった頃、顔を上げれば一人の男。髪こそ短くなっているが、そこにいるよく知る姿
涙が溢れそうになるのを必死に耐え、駆け寄る。勢いに任せて飛び込めば受け止めてくれる彼


「文次郎!!」
……」
「俺もいるよ」
「!……
「またみんなで一緒にいれる。こんな幸せってない!」


あの日死んだことを後悔していた
再び生を受けて、片割れと再会した時の表情を見て
辛い人生だったとすぐに理解した
けれど、今を生きることに必死の彼女に俺は何も言えなかった
でも、今日これをみて一安心だ。漸く自分なりの人生を歩められる──

あの日死んだことを後悔していた
再び生を受けて、死の瞬間の記憶を見て彼が苦しんでいたことを知った
けれど、あの日のことを謝ることなど出来ないと今を生きるしかなかった
でも、今日この瞬間に再会できて幸せだ。漸く一つの人生を歩むことができる──

あの日の死んだことを後悔していた
再び生を受けて、彼女がそばにいないことを何度悔やんだことか
けれど、いつかの再会を夢見て、今を生きるしかなかった
でも、今日こうして巡り会えて幸せだ。漸く幸せの人生に進むことができる──

前世ではできなかったことを、今この時代で実行しよう──



***おまけ


先輩っ!!!」
「今はだ。と呼んでくれ」
先輩お慕い申しておりました!俺にチャンスを!!」
「悪いね……私には文次郎しか。でも遊びに行こういっぱい」
「先輩……大好きです」
「はいはい。三郎……ただいま」
「おかえりなさい先輩!」