「ああもうっ!どこにもいねぇ」
居たか?」
「いや……こうなると街の外の可能性が高くなってきたな」
「まったく……面倒なこったぜルーク様よぉ」


金髪の男――ガイはオレを見付けるなり溜息一つ。現在、オレら二人は人捜し中だ。捜しているのはキムラスカ・ランバルディア王国第三王位継承権を持つ、ルーク・フォン・ファブレ様だ。昨日の就寝以降、姿が見えない彼を捜してバチカルの城下町まで降りてきたわけだが……見つからない
はそんなガイを横目に空を見上げた。今日も相変わらずの青空である
ルークの名前を出す度、隠し切れない感情がガイの瞳を揺らす。尤も彼自身それには気づいていないが
ルーク捜しは難航しているといってもいい。しかも一般民にこのことがバレたらとてもじゃない。いや、一般民ならまだマシか……。マルクトの軍人に聞かれてみろ。キムラスカの警備が甘いことがバレてしまうじゃないか。それは困ったことになる。キムラスカが
これも自分にはあまり関係ない話であるのだが、客員剣士としてここに雇われているのだからそうも言ってられない

そもそもオレはダアトにある、ローレライ教団の神託の盾騎士団に所属している軍人だ。オレを神託の盾に誘い入れたヴァン・グランツをはじめ、ファブレ公爵の要望で、客員剣士として一時期的に雇われているにすぎない。ルークがいなくなる事件も偶々ここにいたから知っているだけであって、神託の盾にいる時期であれば知らされることはなかっただろう


「とりあえず、オレは一度公爵邸に戻るよ。捜索範囲を外まで広げるように伝えてくる」
「あぁ……」
「ガイ。お前はここをもう少し捜していろ……何か裏がある気がする」


明らかに不自然なんだ。この消え方は。いくらなんでも静かすぎる。誘拐事件だったとしても、内部で取引が有ったとしか思えない。でもいったい誰が……
考えていてもしょうがないとガイと別れ昇降機で上に上がる。バチカルの一番上に位置するのは、キムラスカ城とその血族の公爵家のみ。向こうの王都とは大違いだなと何度目か分からない溜息を吐き、ファブレ家の門をくぐる。……と、視界に映る一羽の鳩。その鳩は数度自分の周りを回旋し、最終的にはオレの肩に落ち着いた。足に小さく折られた紙が括り付けられていることから伝書鳩のようだ。鳩をひと撫でした後、括り付けられた紙を解けば役目を終えたとばかりに肩から離れた
誰宛か確認するように、小さく折られた紙を捲る。『ローレライ教団神託の盾 様』……やはり自分宛のようだ。紙を広げて綴られた字を追っていけば自然と溜息が漏れた


『ローレライ教団神託の盾
 そろそろ戻ってくる時期だと思うが、できることなら早めにこちらに戻ってきてほしい。
 人手不足で任務が滞りはじめてしまってな……。
 それと、お前宛の昇進の話が出ているからそれの話をしたい。
 戻り次第、一度自分の処まで来てくれ。   ローレライ教団神託の盾 特務師団長』


なんてタイミングの悪いことだ……。年がら年中人手不足だな、うちの隊は。増員してくれたらいいのに。確かにこの期間なら戻っても問題ないとは思うが、このタイミングで戻れるかは怪しいな。まぁ本職はこっちだから何とかするか。先が思いやられるともう一度溜息を吐き、ファブレ公爵がいるであろう部屋の扉をノックした


「……誰だ」
です。一度戻りました」
「あぁ。入れ」
「失礼いたします。ガイはまだ探索中ですが、一度ご報告のためにこちらへ」
「ご苦労だった。して、ルークは」


執務室の一番奥にある椅子に腰を掛け、書類に手を付けていた公爵の目線がこちらに向く。その目は親が子を心配するというより、執務で聞いているような気がしてならない。時々ルークの親ということですら忘れる視線である。公私で分けているのであればともかく、そういうわけではないからな……この親子は


「バチカル内にはそれらしき影は見当たりません。恐らくはもう街の外かと……。捜索範囲を広げたほうが良いかと思われます」
「やはりそうか……」
「はい。内部手引きも考えたほうが良いかと思います」
「今洗っているところだ」
「それともう一つ。教団の任務が入ったとのことで一度ダアトへ戻らなくてはいけなくなりました」
「……あぁ。しょうがないだろうお前の所属は教団なのだから」


公爵から聞こえる溜息。果たしてそれはどういう意味なのだろうか。ダアトにいる時間はできるだけ探すことを伝え、部屋を出る
全く……何をしてくれたんだ。時折聞こえてくる『預言には詠まれていない』という言葉にも吐き気がする。預言が何だってんだ。誘拐なんて詠まれていたら逆に阻止するだろうが……。詠まれていないから誘拐なんて起きるんだ
自分にあてがわられた部屋に入って荷物を確認する。もうじき帰るつもりだったから粗方の整理はできているので最終確認だ。必要なものを全てしまい、ダアト行きの船に乗るため扉を開ければガイがいた


「あれ?どっか行くのか」
「任務が入ってね、ダアトに戻るんだ。あぁ……公爵には伝えてきたから捜索範囲広がると思うぞ」
「そうかお前客員だもんな……」
「みんな時々忘れるけど、そうだからな。とりあえず後よろしくな」
「あぁ。いってらっしゃい」
「いってくるよ」


またあの目……。他の人たちは気付いていないからいいけど、気を付けたほうが良い……。なんて出かかった言葉を飲み込んでガイのわきを通り過ぎる
これをきっかけに全てを取り巻く環境が変わってくれるといいなと、心の中でひっそりと思う
入り口近くの柱に掛かったガルディオス家の家宝の剣の存在が今日はやけに大きく見えた


***


数日間の船旅を終え、降り立ったダアト。そういえば上司に文を飛ばさなかったが大丈夫かと心配になるが、まぁいいか。鳩は返信をする前に飛び去ってしまったし、彼のことだ。きっとオレの行動とかお見通しなんだろうから


「フィンー!!」
「あ、戻ってきた。師団長帰ってきましたよ」
「おー。戻ってきた戻ってきた」
「遅くなりまして申し訳ございません。ただいま戻りました」
「よいよい。さて、。フィンセントとと共に任務に当たってほしい。なぁにただの討伐任務だよ」
……?」


特務師団のたまり場に見知った顔を見つけ声を掛ければ、師団長もその場にいた。他の隊員がいないことをいいことに、その場で話し始める師団長。背筋を伸ばして聞いていれば聞きなれない名前が
聞けば先日まで導師守護役を務めていたらしいが、導師エベノスの死亡によりこちらに異動になったそうだ。……ってちょっと待て


「導師が死んだ?何を急に」
「あぁ……病死らしいぞ。新しく就任したのが齢8の“イオン”だそうだ」
「おいおい……そんな幼子を導師にするとか、いくら預言に書いてあるからって」
「まぁ我々には関係ない話だ。でだ、
「はっ!」
「フィンセントには言ったんだがな、フィンセントと共に別の部隊を持て。なぁに1部隊10名程度で全員この師団の人間だ」
「はぁ!?碌にここにいない、しかもガキに部隊持たせるって正気ですか師団長」
「お前の実力を買ったんだよ。地獄案内人デスナビゲーター
「……昇進人事ありがたく受けさせていただきます」


新しい導師が就任が関係ない話だと言い切った師団長はとんでもない話を持ち出してきた。オレが昇進?しかも特務師団の部隊を持てだって?とてもじゃない。まだ13になって間もない人間に務まるかよ。と文句を言ってみたが、決定事項らしく拒否権はないようだ。上に行くつもりなど毛頭なかったというのに……
導師の就任についてをどうでもいいと語った師団長だが、彼の場合はトップが誰であろうと部下は従うべきだという意味だろう。オレらは知っているからよかったものの、他師団の人間が聞いたら大変だろうなと思考を巡らせ、次の指示を待つ

この後行う任務は師団長が言うように、たいした内容ではなかった。ザレッホ火山付近で大量に発生した魔物の討伐。いつもなら二人で行う任務にを連れていくのはきっと、彼女の実力を視たいからなのだろう。全く悪い人だな
準備をして集合場所である入り口に行けば、漆黒の髪を肩口まで伸ばし、長さの違う二本の剣を腰に帯びた女がいた……きっとこいつが“”なのだろう
近くにフィンの姿が見えないこと確認し、気配を消してに近づく。あと一歩のところで歩みを止めの肩に手を軽く置けば、人と思えぬ声が上がった


「な、な、なんだ……人かぁ。も〜びっくりさせないでよね!!」
「……悪かったな。どんな反応をするか見たくてな。でお前がでいいか?」
「はい!つい、二・三日前に異動してきたと申します〜」
「よろしく。オレはだ。一応特務師団の一部隊の長ということになっている」
「あー俺が最後か。フィンセントだ。フィンと呼んでくれ。と同じように一部隊の長だ」
「お願いしますー」
「おう。じゃあ行くぞ」


一通り挨拶も済んだところで、討伐に向かう。三人での任務故、歩きながらの作戦会議だ。それにの実力を確認しなくてはならない。オレらだけなら、実力を把握しているし、何度もペアを組んできているため作戦も何も必要ないが、そうもいかない。目的地に着くまでに実力を把握し、作戦を組み立てる。フィンと同じ双剣使いだが、フィンは同じ長さの剣で、は長さの違う剣だ。どうしてだろう。の戦う姿は誰かと被る……。誰だ?


「……なんかお前ら雰囲気がそっくりだな」
「「は?」」
「反応の仕方もそっくりってのが面白いな」
「色味が似てるからじゃねぇの?そんなこと言ってねぇで早く終わらせるぞ」


フィンにそう言われて、を見る。髪色も瞳の色も同じ(といってものほうが濃い青だ)。同じぐらいの年齢で同性だったら、似ててもおかしくないんじゃないかと自己完結。変に心臓が高鳴ったのは気のせいだろう
ふと気になっての表情を探れば、一瞬考える動作をした後、思考を消すように頭を振った
無言の雰囲気の中、ザレッホ火山に向かうのが億劫だったのだろう。振った話題の所為で、より沈黙が増した気がする。……オレらの所為か
その後も道中出てきた魔物を退治してきた結果、は前衛よりも中衛で譜術を使いつつ剣術で討伐することとなった。それに加え第七音素の素質もあり治癒術も使えることからサポートもしてもらう。素質を持たないフィンは全力で討伐に当たってもらい、治癒術は使えるが詠唱が速くないも同じように前衛だ。もちろん、臨機応変に魔物によって対応するが基本の隊列はこれだ。幸いにも三人とも譜術を使うことが出来るので、前衛に疲れたら隊列を変えることも容易だ


「じゃあ、そういうことで討伐任務開始ということで〜」
「怪我すんじゃねぇぞ」
「「いや、無理」」
「ほどほどにってことだ!行くぞ!!」


***


ローレライ教団神託の盾の本部の地下の一室で赤毛の少年が、落ち着かない様子でソファの上に座っていた。質素な部屋には窓もなく、ライトの明かりだけがこの部屋を照らしていた。生活に困らない程度の家具は設置されているものの娯楽は何一つ置いていない。何もすることがない少年はぐるりと部屋を見回した後、溜息を吐く
扉はこちらかは開かない。少年はこの部屋に閉じ込められているようだ。開かない扉を少年が睨み付けているとノックの音が響く。返答しない少年に対し勝手に開く扉。そこに立っていたのは茶色に近い金髪の髪を一本に結んだ男。ヴァン……。と少年の声が震えた


「ルーク……これからお前はアッシュと名乗りなさい」
「アッシュ?どうして」
「ファブレ家には“ルーク”がいる。それと同じ名前だとまずいからな」
「アッシュ……」
「あぁ、それと。ここにをよこそう。ただ今は任務で不在のようだから戻ってからだが」
が来るのか!?」


ヴァンと呼ばれた男が部屋に入れば、少年――アッシュはソファから降りヴァンに近づく。それを横目に淡々と報告をするヴァンに気持ちが沈んでいくアッシュだったが、の名前が出たとたんにその表情を一転とさせた。ヴァンはその報告のために寄ったのか、二言程度言葉を交わした後に部屋から姿を消した






後書き
7年越しの修正は原型をとどめていません。
本格的に始動したいです…