き誇る闇の花


とある日の真夜中、ふと目が覚めてしまった誠はカレンダーを見て溜息を吐いた


「もう、澪に関する事を消してもう2ヶ月か…」


どうすればいいのかわかなかったけどもうそんなに経ったのか…

誠はまた溜息を吐いて眠りについた。

同時刻―――澪も目を覚ましていた。


「もう2ヶ月か…早い、それに犯人の手掛かりも無しか……」


静まり返った部屋で澪の呟いた言葉は少し響き誰にも聞かれることなく消えた。




「もう、2ヶ月も経ったのね」

「結構経っちゃったね…しかも手掛かりは無しと来た」

「……だいぶ学校慣れたよね?」

「あぁ…だいぶね」


そう、慣れて来た。自分のことを覚えてない相手を見つけても特に何も感じなくなって来た。

慣れって怖いな。


「安心した頃が一番危ないから気を付けなよ」

「分かってる」


分かっているんだ、この時期が一番危険な事ぐらいは……だけど、周りの雰囲気がいやになる時があるんだ

自分は知っていることなのに知らないように接してる自分が


「分かっているならいいの」


そう、分かってるのならね…と呟いて夕維との会話は途切れた。学校に着いたからだ。

この時はまだこの先なにが起こるか予想が付かなかったんだ

事件が起きたのは昼休み。

いつもなら仲良しの男子がいがみ合いを始めたのが切っ掛けだ


「おぃ!安田お前の母親殺されたらしいな。父親に――」


ガタンッ!!

あ〜なんで、男子って他人の出来ごとに首を突っ込みたくなるんだろう――バカバカしい


「お前何が言いたい?」

「哀れだなって言いたかったんだけど?言い方まずかったか?」


普段は仲良しの安田と佐藤。今こうなっているのは明らか佐藤が悪い


「あぁ、悪いに決まってるっ!」


その瞬間に安田は佐藤の顔面を殴った。

女子からは悲鳴が上がるが何かしようとはしない。

いや、出来ないのだ――明らかに佐藤が悪いから。でも、このままでは殴った安田の方が悪くなっていってしまう――。

澪は、溜息を吐き殴り合っている二人に近寄った。


「危ないよ」

「大丈夫だよ」


そう、澪がケンカを止めさせようとしたのだ。

後一歩進めば2人に届く位置に入った時、いきなり二人は向きを変え佐藤が澪の前に来てしまった。

この状況やばくね?

なんて、思ったのも束の間安田は佐藤を殴り飛ばした

後は窓しかも、硝子が全面にある窓の位置にいて動けずにいた澪に佐藤がぶつかった。

パリーンッ!

その直後、硝子が割れた音がした。

そう、澪にぶつかったあと、佐藤と澪の2人はさらに飛ばされ窓硝子を割ったのだ。


「岡崎さんっ!!」

「…ッ!!」


安田は、我に返ったのか、急いで2人に近寄り佐藤を抱えた。


「わりぃ」

「いや、俺も悪かった」

「澪ッ!!」


呑気に謝っている2人とは裏腹に澪は背中から血を流している


「誰か先生を」


誰の声…?夕維?

夕維は澪の周りにあった硝子を退し、澪に近寄った。


「澪、血液型は」


なんでそこで血液型を聞くか分からなかった。背中が痛いから、血を流してるかもしれないけど…


…A…B型の…RH―…


あー声が出ない。伝わったかな?


「それはホント?」

「嘘…じゃ…ない…翔兄…も…そう……」

「大丈夫か?」


丁度、翔兄こと結城先生がきた。

あぁ、ちゃんと先生に伝えてくれたんだ。

多分あの二人もいないから保健室にでも行ったのだろう

全く、私の澪に何をさせたのよ


「先生、AB型のRH―ですか?」

「……そうだが」

「恐らく輸血が必要になります」


なんで、俺がRH―だって知ってるんだ――誰にも言ってないぞ。従姉妹の2人?…しか


「なんで―――」

「そんなこと今は関係ないです!!澪を殺す気ですか?」

「退いてください」


丁度、救急車が到着したらしい。今のことしか頭に無かったから音が聞えなかった。


「誰か付き添いに付いて来てください」

「「じゃあ、(俺)が行きます」」


夕維は焦っていたのか仮面を外していて、一人称が私に戻っていた。


「昼休み後は、静かに座って自習!!その後は別の先生の指示を聞けっ!!」


先生はそう言って私と一緒に救急車に乗り込んだ。


「お嬢さんの適切な処置のお陰で大丈夫そうです。」

「私は何も…ただ、周りのガラスを退かしただけですけど…?」

「もう少し連絡が遅れていれば間に合わなかったかもしれないんです。連絡いれるように指示したのは貴方でしょ?」


救急車に乗っていた女性は笑って、夕維の頭を撫ぜた。


「………やはり、輸血は必要ですよね」

「そうですね。……何型かしら」

「澪はAB型のRH―だと言っていました。」

「なら、俺がやります。血液型一緒です。」

「そう言ってくれると助かります。……それと両親の方は…?」


夕維が下を向き目線を下げた。


「澪は――両親が」

「………僕に…両…親は……いない」

「澪っ!!」


目を覚ましたらしい澪は、つっかえながら言った。


「だから…翔、兄…貴方の血を…頂…戴…?」

「――っ!!」


なんで、岡崎は従姉妹しか呼ばない名前を知っているんだ?

だって、こいつは…オレと血の繋がりはないはず……


「澪!喋らないでよ!死んじゃうよっ!」

「ヒドいな…僕が……そんなこと」


もう、夕維は泣きそうだった。


「喋らないで!!この子の言う通りです」


救急車に乗っていた女性は澪を怒ってまた応急処置を始めた。

澪の記憶はそこで途切れた。





「…ぅ……ん……?」

「澪!?」

「夕維?…ここ何処?」

「ここは病院!危なかったんだからっ!」


澪は必死に記憶を辿る。

途中から、記憶がない…?


「ホントに大丈夫?…取りあえず先生呼んで来るね」

「あぁ…?」


夕維は走って行ってしまった。

分からない…僕は窓に当たってガラス割って運ばれたまでしか記憶が無い……

“ここ”に流れている血はいったい誰の?


「具合はどうですか岡崎さん」

「えっ?…あーはい。大丈夫です」

「そう?なら、明日には退院していいわよ。少し疲れ気味みたいだけど……ただ」


先生はただの部分を少し強めに言った。眼鏡が若干光った気がした


「しばらく運動は禁止。いいわね。じゃないと、治るまで入院よv」


語尾にハートが付くぐらいお茶目に言ったが、その言葉に澪は首をおもいっきし縦に振った

ヤベェ…今怒った時の珱…姉を思い出した。


「じゃあ、私はこれで。」

「………ありがとうごさいます。」


終わった?明日には、退院していいの?


「―――終わったか?」

「えぇ、終わりましたよ。」

「……仲本、今何時だ?」

「えっと、4時ですね」

「そんなに経ってたんだ―――」


時間を聞いたのは結城先生、時間を聞いて呟いたのは澪だ…。


「なんで、結城先生がいるんですか?」


一応先生だから仮面を付ける。

けど、ほんとになんでいんの?


「それはな…お前がいいんだったら仲本にも聞いてもらうが…」

「それは先生が困るんじゃないんですか?」


その言葉に結城は疑問を浮かべた。

何故そういうことが言えるんだ――?


「先生、ぜひ聞かせてくださいな」

「………あぁ、って、前にお前はいったい何者なんだ?」


素朴な疑問だった。従姉妹しか知らない俺のあだ名を戸惑いもなく使っていた岡崎が


「―っ!!…なんで、それを聞きたいのです?」


ピクリと眉を上げた澪はホンの少しだけいつものトーンより下がっていた。


「無意識だったのか…?岡崎、お前運ばれている時俺のことを“翔兄”と言ったんだぞ」

「――っ!!…それで何を聞きたいの?」


いつの間にか敬語は外れていた。

「何故、まいようが使っている俺のあだ名を知っているんだ?しかも、使った。」

「………………言ってもいいけど、言っても信じなさそうだから言わないでおく」


澪は結城を決して見ず、遠くの方を見て言った。


「何故?言う前から諦めるのか?」

「うん。だってぇ誰も信じてくれないの分かってるもん」


うわっキモなんて思いながら呟くその一言は結城に突き刺さった。


「ほんとにそうなのか?」

「しつこいよっ!!」

「澪!?」


夕維は驚いていた。普段は仮面を付けている澪がその仮面をグチャグチャにしていたから


「信じられるか、られないかは私が決めるんであって、アンタじゃない


最後の方のトーンが凄く低かった。

誰も入れないようにしているようにも感じた
それは夕維以外の人物に対しての拒絶だった
一度、自分のことを忘れた人物に心なんて普通は開けない。
相手は裏切ってなんかないけど、自分は裏切られたように感じてしまうから


「悪かった……今度話してくれるか?」

「……」

「……まぁ、いいか…仲本頼んだぞ」

「えぇ」


こうして結城はでて行った。もう、澪に聞くことはなにもないようだった。


「みんなから僕の記憶が消えたって言っても夕維しか信じないくせによく言うよ」


澪の言った一言は夕維以外に聞かれることなく静かに消えた


「てかさ…“ここ”の中に入ってんの誰の血?」

「結城先生の血」

「そっか…悪い事したな」

「仕方がないよ。私も澪と同じ立場なら同じ事言ってたと思うよ」


澪…澪は私が守るからね絶対





闇に咲く一輪の白い花は誰にも見られることなく儚く消える





☆あとがき☆
仮面の下にはまた仮面
本当の自分はどこに行ってしまったのだろうか…
まさかの澪が暴走、、、